嫉妬......-3
「あっ！ここだ！」
「えっ！ここって....」
瑞希はお店の看板を見て呟いた。
「知ってるのか？」
「うん....この時期限定のチョコがあって....しかも人気があるので予約が要るって聞いた事がある....」
「そう....」
私は瑞希の話を気にもしない素振りでお店の中に入って行った。
「あっ！亜梨紗待ってよ！」
瑞希が慌ててついて来た。私はお店に入って直ぐにショーケースにケーキを並べている店員さんに声をかけた。
「スミマセン....予約していた美浦ですけど....」
「はい！少々お待ち下さい。」
店員さんは伝票を調べて
「"天使の口づけ"おひとつですね？」
「はい....」
「只今お持ちします。ラッピングはどうなさいますか？」
「お願いします。」
「はい。畏まりました。」
それから店員さんは厨房に向かって
「ジュンちゃん！予約された三浦様がおこしだから！ラッピングしてお持ちして！」
そう声をかけた。
「はい！」
厨房からの声を聞いて、一瞬、純を想い浮かべた。
(ジュンという名前だけでアイツを想い浮かべるなんて....)
自分で自分が可笑しかった。
「あのぅ....一つ余裕があったりしませんよね？」
瑞希が躊躇いがちに声をかけてきた。
「おひとつでよろしければございますが......」
「それいただきます！ラッピングもお願いします！」
「はい。畏まりました。」
店員さんは笑顔で答え、再び厨房に声をかけた。
「良かったな！瑞希！」
「うん！本当にラッキーだったよ！」
瑞希が嬉しそうに笑った。「スミマセン....あのピアノ....」
店員さんに話かけると
「えっ？ああ....あれは私が昔使ってたモノよ！これでも昔はピアニストを目指して留学したんだけどね！留学先でこっちにハマっちゃって....帰って来た時驚かれたわよ！」
「こっちって？」
「留学先がいけなかったのよね......」
「どちらに留学されてたんですか？」
「ウィーンよ！そこでザッハトルテにハマっちゃって....まっ私にはピアニストとしての才能が無かったんだけどね....こっちの才能も怪しいけど......」
「そんな事....」
「実はあるのよね....」
その時
「カズ姉！ラッピング終わったよ！」
厨房から声がした。
「あっ！悪いけど持って来てくれる？」
「わかった！」
「ゴメンなさいね....つまらない話で......」
「いえ......」
「なんでこんな話したんだろう......」
店員さんは落ち込んでいた。
「お待たせしま......亜梨紗！何してるの？」
「えっ？」
見ると、コックスーツ姿の純が立っていた。
「お前こそ何してるんだよ！」
「俺？俺はここでバイトだ！亜梨紗こそ何して......三浦って書いてあるからわからなかった....もしかしてバレンタインのチョコを買いに来たの？」
「悪いかよ！」
「いいや！全然！嬉しいよ！」
「あのな....別にアタシは....」
私が照れていると
「あんた達は知り合い？」
店員さんが純に尋ねた。
「まあね！」
「そうか......あのねこの"天使の口づけ"って純が考えたんだよ！」
「えっ!?」
「そして....純にしか作れない....純を見てると自分の才能を疑いたくなるわ......」
「何言ってるんだよ！レシピは教えたろ！楽してないで自分で作れよな！」
「それが出来るならそうしてるわよ......」
店員さんは落ち込んでいた。