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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-4



「・・・・ふぅ・・」

シェヘラザードの全楽章を演奏し終わり、今は休憩という名のインタビューの時間になった。瑞稀としては第二楽章が一番の山場であった。
それも無事に演奏したわけではあるが、疲労感に襲われた。
が、そう根を上げてもいられない。
瑞稀にとって大事な曲がまだもう一つ残っているからだ。
その曲の音は、瑞稀がこれ以上ないほどの緊張を感じながらも演奏する羽目になるだろう。
何故なら、自分の吹いた音が正解か分からないからだ。
勿論、音楽に正解も不正解も無い。だが、瑞稀には一つの求め続ける音がある。
その音にならない限り、本当に大切な人を失うから。
優しいあの人のことなら、許してもらえるかもしれないが何よりも瑞稀が嫌だ。
そうやって逃げ道を作るなんてもってのほかだし、あの人が好きだと言ってくれた音じゃないと大好きな自分のトランペットの音では無い。

「・・・うん」

深く深呼吸してから、頷く。
拓斗が来てくれていると思うと、気負っていた気持ちが落ち着いてくる。
大丈夫。大好きな、拓斗を想えば、絶対大丈夫。
そう自分に言い聞かせていると、突然横にいたエンディから声がかかる。

『ミズキ、ホラ、アナタへのインタビューよ!』(『』は英語)
「え!?」

指揮台の方を見ると、自分を手招きしている指揮者と日本のインタビュアーの姿。
思わず、頬が引き攣りたじろいでいると、仲間が瑞稀を強引に立たせ、指揮台へと押し出した。

「ちょ、あ、あぶな!!」
『ミズキー、頑張ってー!』
『大体、このインタビューのメインが瑞稀なんだからさ!』
『い、意味分からないよ!!』

思わずいつもの練習と同じように仲間と会話をしていると、インタビュアーから戸惑いの声がかかってしまった。それに気付いた瑞稀は一言謝罪をしてから、開き直った。

「(あぁもうっ!!みんなのバカ!!)」
「お疲れ様です、八神さん。質問いいですか?」
「ど、どうぞ。」

心の中で、後ろでニヤついている仲間への恨み言を並べながらも、インタビュアーに少しの笑みを見せた。これに安心したのか、インタビュアーの表情も和らいだ。
ましてや、瑞稀のちゃんとしたインタビューは初めてだ。普段聞けないことも聞くつもりだろう。

「まず初めに、トランペットを始めたのは小学生の頃だと聞いていますが、始めたキッカケは何だったのですか?」
「えっと・・母たち姉弟が私の所属していた鼓笛隊に入っていたんです。その時の舞台の映像に、トランペットを吹いている叔父を見て。カッコイイなと思って鼓笛隊に入ってトランペットを始めました。」
「なるほど!叔父さんの影響だったのですね。叔父さんは今はトランペットは?」
「叔父はその舞台から暫くしてトランペットを辞めてしまったらしいです。でも時々吹いてくれたんですけど、色あせてませんよ」
「凄いですねぇ。目標は叔父さんだったのですね?」
「はい。超えてやるって思っていつも吹いてました。」
「超えられましたか?」
「・・はい。アメリカに渡る時、叔父が『俺を超えたんだ』って言ってくれました。」

あの時のことを思い出すと今でも涙が出る。
あんなにも追いつきたくて超えたくて、頑張っていた背中を、知らず知らずの内に自分が追い越していたこと。やっと叔父に認められたこと。それが、嬉しかった。
でも、勿論追い越すには必要だったモノがあった。
それが、あの人への想い。

「叔父さんに認められた、とても喜ばれたと思います。そこまでの努力が実を結んだんですね。」
「はい。・・でも、努力だけじゃ、足りなかったんですけどね」
「・・?・・前回のコンサートまでメンバーを外されていたわけですが、それでもトランペットを諦めなかったのは、どうしてでしょう?」
「・・どうしてですかね。」

答えを丸投げした瑞稀に、会場全体がどよめいた。インタビュアーが困った表情をしている。それに気付いた瑞稀は笑った。

「自分でも曖昧です。こんな情けない自分が嫌だったし、早くコンサート出たくて焦ってたし、半ばヤケでした。」
「・・はぁ・・」
「吹いていても、自分の求めるような音じゃないし、上手く吹けなくて苛立ちをトランペットにぶつけましたよ、勿論。練習を重ねれば、吹けるようになるのかなって。そうして、自分を追い込みました。」
「・・・」

遠い目をして話す瑞稀の言葉に、全体が静まり返る。まるで、瑞稀独宴状態。

「でも、色々あって、色々失いかけて、自分の音ってどんなんだろうって考えました。今の自分に失われていて、前に存在していた音の根っこの部分。」
「根っこの、部分?」
「・・考えてみて、分かったんです。大切な人に好きだと言われた音が、自分の音の根っこだったって。その人一人だけに好きになってもらえた音が、自分の大好きなトランペットなんだって。」
「・・・」
「それこそが私の求める音で、取り戻したかったんです。だから、ここまで来ました。」



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