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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-3



顔が赤くなるのが、嫌でも分かる。
この間の電話でも瑞稀から遠まわしに言われた台詞でもあった。
拓斗の顔が真っ赤になる様子を見て、恵梨はふっと柔らかい笑顔を浮かべた。

「瑞稀はそんなの自覚はしてない。けど、どこかで感じ取ってると思うんだ。それに、キミが好きな音っていうのは、もしかしたら、そういう音じゃないかなって」
「・・え?」
「大丈夫、瑞稀なら。キミの好きな音を、聴かせてくれる。」

力強く言われた言葉に、熱いモノがこみ上げそうになった。
なんとかそれを耐えて「あぁ・・」とだけ言葉を返した。
こんなにも瑞稀を心の底から信じている恵梨が凄いと思った。それと同時に、そんな親友を振るということで傷つけた自分を怒らないでいてくれている、それだけではなく、自分の母親と来るという予定を崩してまでも自分と瑞稀を会わせる機会を作ってくれたことにも、尊敬の念を抱いた。そうそう、出来る事ではない。

パンフレットを握る手に、ギュッと力が込められる。
すると、ブザーが鳴って少しホールの照明が落とされた。
もうすぐで開演する、という合図だろう。
顔を上げ、ステージを見ると少し間が空いてからオーケストラの楽団員たちが楽器を手にしながら壇上に現れた。中に、紫のドレスを着た瑞稀の姿。
その初めて見るドレス姿に拓斗は見惚れ、言葉を失った。

団員たちが椅子に座り、指揮者の登場を待つ。あまり間を置かずに指揮者が現れた。
すらっとした長身の男性でどこかのモデルに似ているイメージを持った。
指揮者が客席に向かって一礼をすると、沸き起こる拍手。その中で、指揮台へと上がり、団員たちとアイコンタクトを交わす団員たち。
アイコンタクトを全員と交わす頃には、客席からの拍手も止み、静寂に包まれていた。
拓斗も、固唾をのみ、待つ。

すると、指揮者が指揮棒を振り上げた。瞬間、音楽が始まった。


 ‐『シェヘラザード』交響曲第4番

1888年、夏に完成されたニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲である。『千夜一夜物語』の語り手、シェヘラザードの物語をテーマとしている。シェヘラザードを象徴する独奏ヴァイオリンの主題が全楽章でみられる。各楽章の表題は本来は付けられていない。作曲途中では付けられていたものの、最終的には『アンタール』のように《交響曲第4番》として聴いてもらうために除去したものといわれている。
日本での演奏会、録音媒体などでは「シェエラザード」と表記されることが多い。


第一楽章ではうねる海や海賊をイメージさせる、ハープ伴奏やヴァイオリンがメインとなっている。
第二楽章、ヴァイオリンがメインなのは変わらないが、カランダールという苦行僧をあらわしているかのような力強い響き。これにはトロンボーン、トランペットなどの金管が出張する。そしてその力強いまま、楽章が終わる。
第三楽章、先程までとはうって変わってゆったりと静かなメロディが流れる。途中、クラリネットや小太鼓が活発な音を奏でるが、それでもまた静かに楽章が終わる。
第四楽章、激しい音楽で始まり、次第に音が消えていく。イメージは船を乗せ荒れ狂い、静かに引いていく波のよう。ヴァイオリンが最後を飾る。

第四楽章までが終わると、休憩となった。
コンサートでは少しの休憩があり、その間に遅刻者が入場する仕組み。あとは団員たち個人の休憩でもあるのだが、今回は日本のマスメディアのインタビューがこの時間に当てられている為に誰も席を外そうとしない。

インタビュアーが団員たちに次々と質問をしているのを、拓斗は上の空で聞いていた。
今ままでの演奏に、心を奪われていた。

「・・・・」

音楽にはあまり興味もなく、詳しくない拓斗だったがここまで引き込まれるとは思っていなかった。ずっと主題のヴァイオリンだけでなく、金管、打楽器、ハープ、弦楽器。全てに意識を持って行かれ、どれも一瞬一瞬見逃したくないほどだった。
音色の一つ一つだけで、脳裏に映像が流れ、人物が動き出す。懐かしい、映画を思い出しているかのような錯覚。
音楽の力。オーケストラの素晴らしさ。
それを肌で実感出来た。

だが、肝心の瑞稀の音が分からなかった。
勿論聴いてはいたし、見てもいた。だけど、特別自分が好きな音というわけではない音しか聞こえてこなかった。
やっぱり、分からなかったのかと寂しく思っていると、横から肩を叩かれた。
目だけを移すと、恵梨が耳元で、

「多分、このあとインタビュー、瑞稀に回されるよ」

そう告げた。
頭が理解した瞬間、バッと勢い良くステージを見た。
すると、タイミング良く、インタビュアーが壇上に居る瑞稀に視線を向けていた。



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