どっちつかずの気持ち-21
その瞬間、氷のように固まった久留米さん。
それを見て、あたしは言ってはいけないことを言ってしまったことに気付く。
副島主幹には他言無用って言われていたのに。
今までの久留米さんの様子を見て、その彼女を忘れられないってのは一目瞭然だったのに。
家路に向かうOLやサラリーマン、これから飲み会に向かうらしい大学生のサークルみたいな集団、お食事帰りの似非セレブみたいなおばちゃん。
平日の夜のこの辺りは、色んな人種が行き交って賑わいを見せる。
そんな活気のある街並みの中で、あたし達だけが時間が止まったかのように動けないでいた。
脳天気に街を歩く人達がこちらをチラチラ見ながら、通り過ぎるのが視界の端に映る。
“痴話喧嘩か?”みたいな冷やかすような視線が、針に刺されたように痛みを感じさせる。
でも、この痛みは針で突っつかれるような軽いもので、あたしをもっと痛くさせているのは、紛れもなく目の前に立っている無表情の男のものだった。
あたしは久留米さんの反応が怖くて動けずに湿り気を帯びたアスファルトに手をついたまま。
汗ばんだ手に埃や砂が貼りついてくるけど、それすら掃えないまま下唇を噛んで俯くしかできなかった。
すると、ズッと引きずるように、久留米さんの靴が一歩あたしに向かって踏み出してくるのが見えた。
殴られでもするのだろうか、そんな気がしてギュッと目を瞑る。
そして、二の腕がグッと掴まれると、あたしは覚悟したように奥歯をグッと噛みしめた。
しかし久留米さんはいつもより少し低い声で、
「とにかく、場所移そう」
とだけ言うと、半ば無理矢理あたしの身体を立ち上がらせるだけだった。