どっちつかずの気持ち-15
◇ ◇ ◇
「なんか今日のお前すごかったよね」
あれからあたし達はいつものように一緒にお風呂に入り、服を着て、精算を済ませ、フロントを抜けた。
いつもと違うのは、あたし達が抱き合った場所が、普段の御用達の『モナリザ』ではなく、駅裏のラブホ街にあるホテル、『ダ・ヴィンチ』という場所になっていたことだ。
『モナリザ』はモーテルタイプのラブホだから、あたしか塁の車を利用して行くんだけど、『ダ・ヴィンチ』は街中にあるから駐車場は数台分しかない。
今日、塁のお誘いがあった時にあたしはたまたま駅ビルで買い物をしていたから、塁もそこに車を停め、ラブホ街手前のコンビニで落ち合って、目的地に向かったわけだ。
「場所が変わったから気分も変わっただけだよ」
なんて、ごまかしてみる。
『モナリザ』はライターの一件があってから二度と行くまいと決めていたからちょうどよかった。
でも、あのライター事件があったから、あたしは久留米さんと知り合えたわけだし、そう考えるとあたしのライター収集癖も意外と縁を運んでくれたのかな。
そんなことを思っていたら、『ダ・ヴィンチ』でライターを持ち帰ることをしなかった自分に気付いた。
塁はしばらくあたしの顔を何か言いたげにジッと見つめていたけど、
「オレは『モナリザ』の方がよかったな。
フロント通るのとか、マジ落ち着かねえ。
他のカップルと鉢合わせすんじゃねえかと思うとハラハラするわ」
とだけ言って、普段は絶対にしないのに、なんでか手をギュッと繋いでくれた。
そんな塁の今更な優しさが不思議と身に沁みた。
純粋に塁だけを好きなあたしだったら、“他に女がいるくせにこういう時だけ優しくしちゃって”なんてムカついたかもしれない。
そして、ムカつきながらもそんな彼の手のひらで転がされ、ますますはまって抜け出せなくなるのが今までのパターン。
しかし、今この手をふりほどこうとしないのは、慰めてくれる都合のいい男を失いたくないというズルい感情からきていることにうすうす自分でも気づいていた。