どっちつかずの気持ち-10
……聞いてみよう、久留米さんの過去。
あのやりとりを聞いていたら、もう気になって仕事も手につかなそうだし。
決して単なる好奇心じゃない。
浮かぶのは、思いっきり振られたと寂しそうに笑う彼。
あたしが飲みに行くのを誘った時に、女友達から彼氏の愚痴をよく聞かされていたと懐かしそうに話していた彼。
本命がいながら、他の娘と付き合っていたと話す彼。
久留米さんから垣間見えた女の影に、何でか胸が痛くなったのも、さっきの久留米さんの迷惑そうな否定の仕方に苛立ったのも、今この胸のざわめきも、そう考えたら合点がいく。
――あたしは、久留米さんを好きになりつつあるんだ。
芽生え始めていた想いをようやく自覚したあたしは、真剣な顔で副島主幹に言った。
「……副島主幹、久留米さんは昔何があったんですか?」
あたしがそう言うと、副島主幹は驚きもせずに煙草を深く吸い込んだ。
まるであたしがそう訊ねるのをわかっていたかのように。
「……今から話すのは他言無用で頼むな」
副島主幹はそう前置きしてから、いつもの面白おかしい様子は一切見せずに重い口を開き始めた。