第2章 疑惑-8
最初に映し出されたのは、一面のピンクだった。オートフォーカスですぐにズームが調整されると、それが足元のカーペットを映しているのだとわかる。
ハンディビデオね、でも撮影者は素人っぽい。それがあたしの第一印象だった。
ビデオは床の上をゆっくり進み、脱ぎ散らかされたスポーツシューズとソックスを、やがてベッドの裾へとたどり着く。そこに腰掛けているのがおそらくシューズの主だろう。引き締まった素足が伸びていた。
見ているうちに、ビデオは舐めるように身体を這いあがり、程良く日焼けした太もも、白いプリーツのスカートに包まれた腰、そしてテニスウェアらしきスリーブレスシャツの胸もとをアップで映し出す。
どうやらホームビデオのようだけど、誰かの悪ふざけかしら。それとも生徒会が押収した裏ビデオ?
そんな印象を受けている内に、ビデオは少し引いて、ピンクのベッドに腰掛けた女の子の全身を映し出す。髪をポニーテールに結わえた、ちょっと生意気そうな顔立ち‥、あれ?誰だったかな、どこかで見たことがあるような‥
「新城先輩!?」
びっくりしたような瀬里奈の声で思い出す。そうだ、去年取材したテニス部の先輩。たしか昨年度のインターハイ個人戦に出場した新城遥香だ。
そうそう、大会前にインタビューに行ったら愛想よく応えてくれて、目指すは優勝よ、と豪語したのを覚えてる。あいにくベスト八止まりだったが、それでも鳳学院初の上位成績を残し、大会後のインタビューでも来年こそは優勝よ、と笑顔で応える明るい先輩だった。
だがビデオに映る先輩からは、どことなく違う印象を受けた。笑顔を向けてはいるが、ちょっと上目遣いの媚びた感じは、なんと言うか、そう、いやらしい。
「初めまして、鳳学院二年C組テニス部所属の新城遥香です」
この声にも聞き覚えがあった。ビデオの中で自己紹介する彼女は、間違いなくあたしの知ってる先輩だ。でも、これはいったい何だろう。
「ええと、身長は百六十一センチ、体重は五十二キロ、スリーサイズは八十二、五十八、八十四です」
悪ふざけだとしたら、ちょっと度が過ぎてるわね。怪訝な感じはますます深まるが、次のセリフであたしは顔が強張るのを覚えた。
「今日は遥香を選んでくれてありがとう。遥香の恥ずかしい姿、いっぱい見てって下さいね」
「‥なっ!?」
再び瀬里奈が驚きの声を上げる。そんな動揺をよそに、画面の中の先輩は悪戯っぽく笑いかけてくる。
「えっと、遥香は今年インターハイに出場することになってます。これはその時着るテニスウェアです」