第2章 疑惑-4
「なんでしたら、『実録、桜井先生の男関係に迫る!』で、報道部の記事にしてみましょうか?」
「あう〜、それすっごくやりたい!やりたいけど‥さすがにまずいわ」
何がまずいかと言うと、桜井センセは報道部の顧問。同好会を立ち上げた時、顧問を引き受けてくれるのが、新卒の彼女しかいなかったのだ。
ここで下手な記事うって、顧問を降りられでもしたら笑いがとれない。あたしは自分で自分の首を絞めるほど、間抜けじゃないつもりだ。
しょ〜がない、サクッとこの作業を片付けて、何か新しいネタを考えよう。すでにノルマの新聞記事は六割方出来上がってる。これなら明日には終わりそうだし、今日はそろそろ切り上げようかな。
「ところで沙羅さん、これ、何のDVDです?」
「えっ、DVDなんてあたし借りてないよ?」
しかし紫苑はあたしのバッグから、見覚えのないCDケースを取り出して見せる。全然心当たりがないんだけど、なんだろう。
「あっ、それってもしかして、あいつとぶつかった時のじゃない?」
「あ〜〜!」
瀬里奈の一言で、ようやく思い当たる節があった。そうだ、インテリ眼鏡とぶつかった時だ。多分だけど、あの時ぶちまけられた一枚があたしのバッグに紛れこんじゃったのかも。
「やっば〜い、それインテリ眼鏡のじゃん!」
思わず叫んだインテリ眼鏡が面白かったのか、突然瀬里奈が噴き出す。どうやら笑いのツボにはまったようで、含み笑いが止まらない。
「フフ‥どうするの、その‥インテリ眼鏡、怒ってるかもよ」
もうっ、笑いながら嫌なこと言わないでよね。またあの仏頂面で文句を言われるかと思うと堪んないわ。でも、返しに行かないとまずいだろうな〜、これ。うぅ‥気が重い。
「と言うことは、これ生徒会の資料ですよね?」
「でしょうね〜」
あたしの気も知らないで、紫苑が判り切ったことを尋ねてくる。そりゃそうでしょ、インテリ眼鏡がテレビの録画なんて校内に持ってくるわけがない。しかしあたしは紫苑の意図を読み違えてた。
「‥もしかして、中身に興味あります?」
何ですと?
振り向いたときにはすでに、悪戯っぽい微笑を浮かべたまま、問題のDVDをドライブに挿し込んでいた。さすがは紫苑。知りあって五年たつけど、時々こういうびっくりするようなことを平気でやっては驚かせてくれる。
でもまぁ、入れてしまった物は仕方がない。いそいそとパソコンを覗きに行くと、笑い転げていた瀬里奈も寄ってくる。ところが、画面に表示されたのは、つまらない一行だった。
『このDVDは保護されています。閲覧にはパスワードが必要です』
「な〜んだ、残念」