桜貝の流儀 ☆-1
6月7日
25時49分、正確に言うならば6月8日。
恵利子は、自室ベットの中で震え泣いていた。
今尚強姦魔が自身に対し、煮え滾る様な熱い想いを馳せているとも知らずに……
その脳裏には、今日放課後の事が思い起こされていたのだ。
「恵利子の中に射精する」
男がそう耳元で囁くと同時に、捻じ込まれた物がひと回り大きく膨らみ数回脈打つ。
極薄のポリウレタン越し、膣内に放たれる感覚、その感触に恐怖し全身に悪寒が走り吐き気さえ覚える。
この日恵利子は男からの脅迫に屈し、レイプ後初めてのセックスに応じる。
実際には10分弱程度正常位による挿入であったが、恵利子にとっては永遠とも想える程永い拷問であった。
ずるっ…… りっ
射精後、男のおどろおどろしい欲望が胎内より引き出さてなお残る異物感。
同時に頬を力一杯張られた後残る様な熱を持った痛みに膣内が支配される。
時間の経過と共に徐々に引く痛みではあったが、腫れにも似たあつぼったい熱は中々引く事が無かった。
もちろんその熱の大部分は、ほんの数日前まで小指程狭窄だった処女孔に、その数倍の太さで歪な形をした物が往復運動を繰返し摩擦抵抗で生じた結果である。
しかしそれは挿入前の恵利子に、気付かれないように塗り込まれた媚薬の効果でもあった。
入室すると制服を脱がされ、男の指先が全身を這い始める。
当然いきなりの挿入と言う訳では無く、頃合いをみてブラとショーツが脱がされると、這う指先が舌先に代わる。
両脚が開かされ始めると、男の関心は徐々に太腿の付け根に移り始める。
(気持ち…… 悪いっ)
恵利子は心の中で繰り返し呟く。
潔癖症の恵利子にとってそれは耐え難い嫌悪の感覚。
まるでナメクジが自分の中心を這いまわる様な悍ましい感覚。
(どうしてこんな事がしたいの?)
そう男に問いかけてみたいとさえ思えた。
天井を眺めていた虚ろな瞳には、いつしか両脚の間に頭を割り入れ、熱心に舌先を蠢かす男が映っていた。
そんな恵利子の視線に気が付いたのか、男の口元がたわわな胸元に移り代わりに指先が膣内に潜り込む。
「……っ痛」
思わず声が漏れる。
それは指先が膣内に差し入れられた痛みと言うより、すでにある傷痕に再び刺激が加えられた事による痛みであった。
しかしその指先には電車内で痴漢行為を受け続けた時同様、それと気付かれぬうちに媚薬が塗され間接的に恵利子の薄い合せ貝に塗り込まれていく。
挿入前の十数分にわたり知らぬ間に侵食されていく桜貝。
その効果は電車内での痴漢行為時同様に表れ始める。
初めのうち肉薄だった大陰唇は、時間の経過と共にプックリと肉厚に充血し膨らみ開かれ始める。
そうは言っても処女喪失間もない15歳少女の身体、多少の受け入れ態勢が出来たとは言っても不十分である。
逆に言えば不十分でこそあれ媚薬の効果により、痛みに打ち震えながらも15分の往復運動に堪え射精を導く事が出来たのである。
(恵利子…… の中で射精する)
再び甦る囁かれた淫猥な言葉。
脳裏に浮かぶ“妊娠”と言う最悪の恐怖から、“極薄の境界”だけが自分の純血を辛うじて守ってくれる。
“純血”…… 少なくても恵利子自身はまだそう思っていた。
いや、そう思いたかったのである。
レイプされその後もセックスを強要されてなお、恵利子はまだそうであると思い込みたかったのである。
医学的には男の精液が恵利子の膣内に直接放たれていない以上、恵利子の考えは正しいのかもしれない。
しかし処女膜は損壊し繰り返さた性交により、小指一本通るか通らない程狭窄だった膣孔は、無残に拡げられていく。
(女は好きな人と結婚してから、その人とだけセックスしその子を産む……)
幼き頃より母から植え付けられた、強い貞操観念が恵利子の思考を混乱させる。
恵利子にとって、結婚=セックスであった。
未婚の身でありながら処女を奪われ、その後も脅迫されたとは言えセックスさせられた事が、恵利子の精神を侵食し苛む。
ベットの中、疼く痛みに打ち震え涙を流す恵利子。
おそらく以前の“夢見る乙女”だった恵利子であれば、この肉体的精神的負荷に堪えかねどうにかなっていたかもしれなかった。
しかしその可憐であどけない容姿に反して、恵利子の精神面はある時を境に大きく変貌しつつあった。
それは小説“コンタクト”の中で出逢ったヒロイン、エレーナ・アロウェイ。
そのタフなヒロインに憧れ、通称エリーと自分を以前から重ね合わせていたのだ。
(こんな時、無神論者で科学者のエリーなら……)
少女は、自問自答を繰り返す。
セックス…… そんな言葉が縁遠くさえ感じられる程清らかな少女。
その容姿はまるで、ビスクドールを連想させる程可憐で愛らしい。
成長につれその愛らしさに、理知的な魅力を合わせ持つ様になった恵利子。
優れた人間は、何処かが抜け落ちた様に欠落した部分があると言われる。
その処女を狡猾な男に奪われてなお、高潔な心を持とうとする少女に襲い掛かる更なる凌辱。