夢か現(うつつ)か-4
「あ、そう言えば、翔平のバッグの中で携帯が鳴ってたみたい」
すると突然、小夜は思い出したみたいに、パチンと両手を叩くと、部屋の隅に置いていた俺の黒いポーターのバッグを持ってきてくれた。
「サンキュ」
小夜に断りを入れてから、バッグの中をゴソゴソ漁り、スマホを取り出す。
画面を人差し指で滑らせてメール画面を表示させたら見慣れた悪友の名前があった。
「誰?」
「ああ、福沼さんだ」
スウィングの遅番責任者・AV大好き福沼さん(28歳、カノジョ無)の名前を言うと、小夜は苦笑いになった。
どうも、俺の送別会の時に、乱入してきた松本に小夜がキスをされてしまった件以来、やたらと松本とのことでからかわれてくるのだとか。
チラリと見た画面には、
『こないだ貸したDVD、ヒットだったろ? 多分駿河ならヘビロテするだろうから、返さなくていいよ〜!』
なんて、アホな文面が表示されていた。
小夜の苦笑いがこちらにまで伝染してくる。
先日、俺、スウィングの店長、社員の沼津さん、福沼さん、俺の男4人衆で飲んでいた時のこと。
「いいDVD見つけたんだ」と、福沼さんは俺を見るなり、まるで賄賂でも渡すみたいにこっそりエロDVDを寄越してきたのだ。
今回貸してくれたのは、『百合の香りに包まれて』とかいうやつだ。
レズものは俺にとって未開拓のジャンルだったのだが。
何でも、出演女優が小夜と松本に似てるから観てみろ、ということらしかったのだ。
レズものには興味が無かったが、女優が小夜や松本に似てると聞くと、イケナイ好奇心がムクムク沸いてきて、つい誘惑に負けて観てしまった、これが最近の話。
そして福沼さんの予想通り、興味がないジャンルのはずのそのDVDを、いつの間にか何度も観るようになってしまったのだ。
そんな自分を情けなく思いつつも、ホント、福沼さんはアホだよな〜なんて、呆れながらスマホを再びバッグの中にしまおうとした時。
「あ、そうか」
ふと突然、目の前の視界がクリアになったような気がした。