あしあと-1
手術室までは車椅子で運ばれた。
その途中に、両親と兄の姿が見える。普段無口な父は、ただ俺を静かに見つめていた。
陽気な兄も、この時は大人しく口元を引き締めていて、饒舌な母だけ頑張ってきなさいと一言だけ笑顔で俺に声をかけた。
俺も痛みと緊張からか、声は出なかった。ただそんな家族にコクリと頷くだけだ。
手術というのは、初めてだった。そもそも病院に来ること自体がほとんどなかったのだ。
車椅子を押す看護師が歩を進めると、家族の姿がゆっくりと遠ざかっていく。
エレベーターに乗り、いくつか扉を通りすぎると、手術室に着いた。
中には俺の手術を担当すると思われる医師たち看護師たちの姿がズラリとある。
皆、白衣ではなく手術用の緑色の衣服を身につけている。
医師たちが、車椅子の俺をどこか決然とした熱い視線で見つめている。
彼らのピリピリとした空気が俺に伝わってきた。
ここは、彼ら医師たちの真剣勝負の場所なのだと思った。
「よろしく、お願いします」
俺は車椅子の上で、一言だけ言った。返って来る言葉は無かった。
ただ、ベテランと思われる医師がうんうんと何度か頷いていた。