あしあと-7
手術台の上で、俺は体を海老のように丸めていた。
これは術部の部分麻酔を行う為で、脊髄のどこだかに針を入れて、そこに麻酔を入れ込むのだ。
その上で、さらに全身麻酔をかけていくのである。
麻酔医によると、その方が術後の痛みが格段に違うのだそうだが、ここに至ってはああそうですかと相槌を打つだけだ。
ちなみに、脊髄に針を入れるのはチクリとするだけでさほど痛みはない。
俺は腕から弱い麻酔を入れられているらしく、事あるごとに麻酔医から、どうですか?とかボーッとしますか? などと問いかけられている。
体を曲げた状態で、いちいちそれに答えるのがとにかく面倒くさいと思った。
早く終わらせてくれ、それをひたすら心の中で念じている。
「はい、背中の麻酔終わりましたからね。体は仰向けにしていいですよ。では――」
ほんの一瞬、眼鏡を掛けた麻酔医の顔が見えた。
その後のことは、覚えていない。
「はい、Kさん、聞こえている? 手術、無事終わりましたからね。わかる?」
ああ、あのぶっきらぼうな医師の声だと思った。
ただ、目を開けるのが面倒くさい。
麻酔医から、術後に呼びかけるので何か反応してくださいとは言われていた。
俺は、首を縦に振ったつもりだ。
「Kさーん、聞こえていたら、手を握り返してくださーい」
女性の看護師の誰かが俺の手を軽く握っているようだ。
とにかく、目を開けたくなかった。寝かせて欲しいと思ったが、少しだけ握り返した。
その後、母が手術終わったよとか話しかけてきたのがわかったが、俺は何度か頷いただけで目を開けることが出来ない。
やがて、また意識が遠くなっていった。