あしあと-6
気難しそうな医師が一層顔をしかめながらそんな話をするので、俺はもう逃げ出したくなってくる。
本来、胆石の手術は二時間もかからない簡単な手術なはずなのである。
へそのあたりに小さな穴を開けて、そこから機材を差し込んで遠隔操作で胆嚢を摘出する。
一般的にはそんな流れなのだが、俺にはそれが出来ないと言うのだ。
開腹の方が傷口が大きいので、当然入院期間も長くなり、おそらく痛みもあるはずだ。
それだけ説明すると、医師は俺の家族はどこに居るか聞き、両親に説明しに言った。
沈鬱な気分の俺に、残った若い医師がにこやかに語りかける。
「あの、手術は柔軟にやっていきますから、大丈夫ですよ。安心してください」
若い医師はおそらく俺よりいくつか年少である。
もしかして、彼が執刀するんだろうか。先ほどの医師は指導医という立場なのかもしれない。
「手術、遅いですね。もう七時になりそうですが」
「ええ、でも、もうすぐだと思いますよ。それで、少し横になっていただけますか?」
若い医師はそう言うと、俺の腹部に機材をあてがって、熱心に画面を見つめだした。
超音波で俺の胆嚢の形状を調べているようだ。
三十前後くらいで、人の体にメスを入れて手術をするなんて、余程根性が座っているとしか俺には思えない。
それとも、慣れでどうにかなってしまうものなんだろうか。
採血で取る血液にすら気味が悪いと思ってしまう俺にとって、医師というのは畏怖すべき対象だ。
その若い医師の熱心な様子を見ていると、なんとなく大丈夫だろうという気がしてきた。
しばらくすると、先ほどの気難しげな医師が現れて、家族には説明してきたと話した。
話しながら、若い医師の様子を伺っている。
「なぁ、胆嚢の形、はっきりせんな?」
「ええ、ここが肝臓で――――」
「そうやな、大きいから少し脂肪肝かもしれんな。それで、もう少し胆嚢がはっきり見えんと――」
二人の医師は俺の腹を使って言いたい放題言っていたが、正直内容はよく分からなかった。ただこの二人の医師の真剣さは十分に伝わってくる。
脂肪肝という単語だけは分かって、なんとなく気をつけておこうと思った。
二人の手術のシミュレーションは手術前まで続いた。