あしあと-5
手術は午後六時の予定だったが、前の手術が長引いているらしく、一向に始める気配がない。
俺は手術用の浴衣のようなものを着ていて、その下はトランクスのみである。
そんな姿で集中治療室のベッドに寝そべり、ただ天井を眺めている。
手術のどこかのタイミングでトランクスは脱がされて、T字帯というおむつのようなものに着せ替えられるらしい。
それで、出てきた時には尿管やら呼吸やら廃液やらの管まみれになって、またここに戻ってくるのである。
そんな想像をしていると、どんどん手術が嫌になってきたが、時間は容赦なく過ぎ去っていった。
この集中治療室には、家族も出入りすることが出来ない。
ただ天井をポツンと眺めるしかやることがなくて、時々看護師が血圧や体温を測りにくるだけだ。
しばらく、物思いに耽っていると、慌ただしく目つきの鋭い大柄な医師が現れた。
たくさんの資料を手に、まくし立てるように手術の説明をし始める。
傍らには、実習か研修か分からないが、真っ直ぐな目をした若い医師も待機している。
「あのね、検査の写真見てみたんだけど、あなたの胆嚢相当に腫れ上がってるんですよ。本当は大きなアーモンド程度の大きさなんだけど、あなたのはその三倍くらい腫れてるんですわ」
「はぁ……そうなんですか」
そう言われても、どうしようもないので、俺は適当に答えるくらいしか出来ない。
資料や写真も見せられたが、正直素人が見てもまるでわからないようなものだ。
「それでね、腹腔鏡の手術をしようと思ってたけど、これは出来ない。胆嚢が腹腔鏡では取り出せないからね。開腹一本でいきます」
「えっ!? それって、結構大変なんですかね?」
「あなたの場合はね、腫れた胆嚢が肝臓の血管に癒着してるみたいなんですよ。はっきり言って、結構難しい手術になるかもしれない」