あしあと-3
薄々そうなるだろうなと思っていたが、やはり手術は避けられないことになった。
いい年の大人のつもりだが、手術の経験は無く薄ら恐ろしい感じがある。
ベッドに寝て点滴を受けているといくらか痛みも和らいでいたので、余計にうんざりした。
しばらくして、先ほどの内科医と外科医と思しき男性が現れて言った。
内科医は優男風、外科医の方は大柄で鋭い目つきの職人風の男だ。
そんな職人風の男が、ぶっきらぼうに言った。
「Kさん、あのね、今日手術しましょうか、急ですけどね」
ギョッとした。本当に急すぎるだろう。
俺はどう答えていいか分からずに、戸惑っていると外科医が話を続けた。
「まず今日は手術室が一つ開いててね、明日は予定があるの。で、胆嚢がだいぶ腫れてますな。明日はもっと腫れる、すると手術が難しくなる。だから、今日しましょう」
外科医はもう有無をいわさず、という雰囲気を醸し出している。
隣で母が話を聞いていて、俺にそうするしかないのよ、などと呟いていた。
それはわかってはいるが、しかし……心の準備というものが。
「承諾していただけますね? まだいくつか手術前の検査がありますし、麻酔医の話も聞いてもらいますんで。どういう手術をするかの説明も後ほど行います」
外科医は鋭い視線でジッと俺を見た。
時間は一秒も無駄にしたくないと言わんばかりの勢いだ。医師が多忙なのは俺も知っている。
俺は不承不承、はい、と小声で呟くのがやっとだった。
手術をするのには、いくつかの用具を準備しなければならない。
たとえば腹帯、T字帯(おむつのようなもの)といったものだ。
母が、それらを売店に買いに行く。
父は、俺の入院の準備の為に一旦家に帰るようだ。
遠ざかる父の背中を見送りながら、残された俺はしばしベッドの上で一人、考えた。
父も病気で入院することが多かった。何回入院して手術しただろうか。
父は胃潰瘍と心臓病で手術をした。特に、心臓は十二時間近くかかった大手術で、この時はもしものことを考えたりもした。
その後も、軽度だったが皮膚がんで耳たぶの一部を切除したり、糖尿病の関連で眼の手術をしたりと何かというと病院の世話になっている状態だ。
だが、父は昔から体力が異様にあった。
そんな状態にもかかわらず、仕事は続けている。