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あしあと
【家族 その他小説】

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あしあと-2

 今年の正月休みは長かった。
 俺も実家に帰り、それなりの休みを過ごしていたのだが、その帰り際に突然猛烈な腹痛に襲われたのだ。
 みぞおち辺りに鈍く重苦しい痛み。痛い、というよりは苦しさの方が強い。
 冬だというのに、油汗が滲んで、上着までびっしょりと濡れた。
 実はこの痛みの原因は既に知っている。
 二年ほど前だっただろうか、やはり同じような症状に襲われたのだ。
 病院で超音波やらレントゲン、血液検査、CTスキャン等々二万ほどの検査費を支払って調べたことがある。
 結果、病名は「胆嚢炎」であった。
 平たく言うと、この胆嚢という臓器に石がいくつか出来ていて、これが動くと痛みが出るのだという。胆石というやつである。
 
 この胆石の痛みは相当に耐え難いものなのだが、二時間程度でその痛みが嘘だったかのように治まる。
 疝痛発作というらしく、胆石の発作はそういうものなのだという。
 医師は手術をしろと言ったが、俺はその時はのらりくらりと断った。
 人間弱いもので、痛みが治まってしまうと手術という気になれない。
 ちょっと忙しい時期で職場を休むのもどうかという事情もあった。

「また、痛んだときに考えてみますよ」

 幸い、放置しても死に至るような病気ではない。この時の俺は楽観的に考えていた。
 医師は俺を少し呆れたような顔をして見ていた記憶がある。

「おそらく、いつかまたここに見えることになります」

 そのときはお願いします、俺はそんな軽口を叩いていた。
 

 激烈な腹痛に襲われながら、やはり医者の言うことは大抵正しいのだと思った。
 両親に腹痛を伝えると、顔色を変えて、急いで俺を病院に連れていく準備をし始める。
 持病に胆石があることを知っていて、その痛みかと母が問うてくる。
 俺は、おそらくそうだと思うと答えた。
 次に発作が現れた時は手術と医者からも母からも言われていたので、腹を押さえながらいよいよ年貢の納め時か、と俺は考えていた。

 病院は患者が多く、強烈な腹痛にもかかわらず、診察はかなり待たされた。
 ようやく診察を受け、ベッドの上で点滴を受けていると、内科医が現れて一言言った。

「Kさん、腹痛の原因は、察しの通りです」

 この医師が二年前に俺を診断して手術を薦めた医師かどうかは覚えていない。
 だが、カルテは当然残っていて、その時の記録なのか察しの通りという言葉をこの医師は使ってきた。

「そうですか。で、私はこのまま入院ですかね? 痛みはやや治まりつつあるのですが」
「病名は急性胆のう炎。このままお帰しするのは忍びない状態ですね。帰っても、また同じことの繰り返し、あるいはもっと悪化します」
「では、手術をすると?」
「そうなりますね」
「――いつになりますか?」
「それを、今から外科医と相談したいと思います」


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