あしあと-13
結局、入院生活は半月に及んだ。
もう少し早く退院出来る予定だったが、手術の傷口がやや化膿してしまい一週間伸びてしまったのだ。
入院中は、主にラジオが友だったという気がする。テレビもあったが、金がかかるのだ。
入院中は暇だという人もいるが、早寝早起きをして、健全な食事をして穏やかに過ごすというのも悪くない。
管だらけだった俺の体から少しづつ管が外され、少しづつ自由になっていく過程に喜びを感じた。
余裕が出てくると、休憩室でゆっくりお茶を飲みながら新聞を読んだりもした。
そんなありきたりなことで、気分が落ち着いてくる。
退院となると、むしろ寂しさすら感じたものだ。
手術の傷は、実はまだ完全に治ってはおらず、というか動くとそれなりに痛むのだがそれでも退院なのだ。あとは勝手に治りなさいというわけである。
退院の日も、俺は腹を押さえて病室を出た。
荷物を持とうとすると、両親から止められた。今日は何もしなくていいと言うのだ。
いくらなんでも、こんな鞄くらいは持てると思ったが、母が持ち去っていった。
もう点滴台も無くて、自分の足で歩いている。
病院の中はそれなりに歩いたつもりだが、それなりを超える程度のものではないと思う。
それで、回復が早まったのかどうなのかはよくわからない。
精算を終えて、病院を出ると、陽の光が眩しいと思った。
そういえば外に出るのは半月ぶりだ。
空調が効いた病院の中と比べて肌寒いが、新鮮な空気が心地よい。
それでも、深呼吸はまだうまく出来なかった。せきやくしゃみでも傷口が少し痛む。
駐車場の父の車の前に着いた。いよいよ病院ともおさらばだ。
「俺が運転するよ」
一応言ってみたが、母に即刻却下された。
「今のあんたが、運転できるわけないでしょう」
父は無言で運転席に乗り込んで、エンジンをかけた。
父が病院に行くときは、何度も俺が送ってやったもんだ。何回送っただろうか。
まさか、俺が父に送ってもらうことになろうとは。
車がゆっくりと動き出す。後部座席に座った俺の体が、ほんの少し揺れた。
腹の傷が、じんわりと痛む。
俺が手で腹を押さえると、車はいつもよりゆっくりと進み、家路に向かった。
−完−