∀ 一家惨殺事件-4
「どうして来なかった?」
私を殺したいか、その問い掛けに彼は答えなかった。彼の手の中で、私の家族を奪った包丁が赤黒く、不気味に光っている。
お姉ちゃん──もう一度、弟の声がする。私は彼に、また一歩近づいてその顔を見つめる。いつも優しく穏やかだった彼の面影はまるで幻のように、返り血で染まった表情の奥は果てしない憎悪が広まっている。きっとこれが、彼の本質だったのだ。幼少期から叩き込まれた苦痛、憎悪、それを押し殺して自分を偽って生きてきた。けれどそんな自分を認めたくなかっただろう。だから必死でいい人でいたかった、まともな道を歩きたかった、きっと、両親を殺害した時に、我慢が死んだのだ。
可哀想な彼。けれども、彼は、この男は、私の、大切な家族を──。
「行くだなんて、言ってないじゃない!」
お姉ちゃん、と弟が後ろで叫んだ。