∀ 一家惨殺事件-3
──両親を殺してきた。あいつら、薄汚ねえ変態共に妹を売ってやがった。妹を売った金で薬なんてやってやがったんだ。少し前からヤクザみたいなのが取り立てにきてた。妹売って、薬やって、借金までしてやがった。あいつらが生きてたら駄目なんだ。俺たち兄妹、ずっとあいつらに苦しめられるんだ。だから、殺した。
やがる、だなんて、彼のこんな乱れた口調は初めてだった。けれど言葉とは裏腹に彼は冷静で、その瞳は偉大ななにかを決意したように揺るがなかった。そんな彼に末恐ろしさを感じなかったわけではないけれど、私は、彼に対する同情を禁じ得なかった。逃れる道が殺人しかなかっただなんて、なんて悲しくやりきれないのだろう。実の両親を殺した罪の大きさもなにもかも、私と同い年のまだ十五の少年が、まだまだ成長しきれてないその背中にたくさんたくさん、いくつも背負って、けれど嘆かず涙も見せず、どうして、何故、神様は彼にこんな試練ばかりを与え、苦しめるの。どうして、何故、そんなにも強くいられるの。
もう苦しまないで、と、私は彼を抱きしめた。そして、こうも。──私に出来ることなら、なんでも力を貸すから、と。
──ツテが出来たんだ。妹を連れて、遠くに逃げようと思う。名前も変えて、新しく人生をやり直すんだ。俺、精一杯働く。働いて働いて、妹を養う。なあ、お前も、俺と来てくれないか?
それは、昨日のことだ。言葉を失う私を、彼は穏やかに微笑して抱き締めた。
──好きだ。どうしようもなく好きだ。俺にはお前が必要なんだ。なあ、大切にするから、俺に力を貸してほしい。
──私も、誰よりもあなたが、好きよ。
──俺がお前にとって今後も必要な存在なら、正午までに時計台の下にきてほしい。誰よりも大切にするから。約束だ。
──誰よりも、あなたが、好きよ……。