掌でダンス-6
初めて待ち合わせした場所に彼女を呼んだ。
現れた千秋は神妙な顔付きだった。もう何を言われるのか分かっているいるんだろうな…。
ドアを静かに開けて助手席に座る。
何分過ぎただろう…沈黙が続いた。
「…上田さん。」
その沈黙を破り、千秋がよそよそしくさん付けで俺を呼んだ。グサリと心臓を一突きされた気分だ。
「今まで私のわがままに付き合ってくれて…ありがとうございました。」
千秋…千秋!
「ちあ…」
「松井です。」
「やめろ!俺が言う、やめてくれ!」
「…さようなら。」
俺を見つめるその瞳には…涙が溢れそうなくらい溜っている。
「悪いのは俺だ!千秋は何も悪くない!全部俺のわがままなんだ…!」
千秋は勢いよくドアを開けて素早く車外に出た。
ドアを閉め、俺の目を見て何かを言った。が、窓も開いてなくて聞こえなかった…。
放心したまま帰宅した。里美も子供達も無視して、部屋にこもった。
涙がパタパタと畳に落ちた。
結局…俺のしたことは何だ?
情けない。悔しい。悲しい。里美から千秋をかばう為に別れたんじゃなく…里美や子供達を捨てる勇気がないだけなんだ…。
それだけなんだ…。
今の俺には、愛だけで里美から千秋を守り抜く自信がないんだ。
千秋とは、会社でも最低限必要な事以外に口をきく事はなく、ひどいと何日も挨拶すら交わせないのが続く。
やがて…彼女はいなくなっていた。
うちの会社を辞めたみたいだ。
ショックで自分を責めたが、これでゼロに戻ったな…とホッとする自分も居た…。
家ではもう、里美に頭があがらない。
里美は子供達に吹き込む。
「パパみたいな男になっちゃ駄目よ。」
俺は笑って答える。
「ママの言う通りだぞ。」
end