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掌でダンス
【その他 官能小説】

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掌でダンス-5

結局俺は千秋を“愛人”として縛りつけてしまっている。
千秋は何も言わないけど、時々とても寂しげな表情をしている。俺は見てみぬ振りをして…いや、見ないようにしていた。
俺は、里美と千秋、二人の女を苦しめている。
いい加減ハッキリさせなくては。


「里美、話がある。」
日曜の朝、里美にきりだした。
子供達は俺の実家に昨日から預けてある。
「何。」
「俺、もうお前についていけないよ。」
里美は一呼吸置いて、冷ややかにこう言った。
「…オンナでしょ。」
気付いてないとばかり思っていたが…。


「違う。お前とこの先やっていく自信がない。別れたい。」
俺は平然を保てているだろうか…。ニタリと里美が笑った。
「隠さないでよ。調べてあるんだから。松井千秋さんの事。」

?!

「アンタが寝てる間に携帯見たのよ。で、人に頼んで調べさせたわ。」
俺は絶句した。
「私はねぇ、絶対に離婚しないわよ。」
里美は数枚の写真を俺の前に叩き付けた。

そこには、俺の車に乗り込む千秋や、別れ際にキスする俺達、ついこの前の公園での淫らな姿…。千秋の自宅らしき家までも写っていた。
俺は負けずに応戦するしかない。


「はぁ?何で?俺は千秋を愛してるんだ。お前なんて愛しちゃいない!それでもか。」
声がでかくなる。
「だって離婚なんてカッコ悪いもん。子供の教育にも良くないでしょ。私も今更仕事には出たくないしね。アンタは金を稼いでくれればそれでいい。」
開いた口が塞がらない…とはこういう事か。
さらに笑みを浮かべながら続ける。
「なんなら…松井千秋を訴えてやってもいいのよ?」
「それはやめろ!悪いのは俺だ!」
「アンタはだからバカなのよ。世の中はねー、既婚者だと知ってて付き合う女の方が悪いのよ。」


そんな…そんな事になったら千秋は…。
「アンタももっと考えてからモノを言いなさいよねー。」
アハハと笑いながら里美は冷蔵庫からグレープジュースを出してグラスに注いだ。
…赤紫の液体はみるみる里美の体内に消えていった。

俺はズルイ男だ…。
千秋を抱いてはいけなかった。
でも好きでたまらなかった。結婚してたら何故許されないのか。
千秋の為に、千秋とは別れなければならないのか……。

ツラい。


翌日、俺は千秋を避けた。
最低の行為だ。ツラすぎて千秋と接する事ができない。


千秋からの電話にも出ず、メールも返事しずにいた。それが一週間続いた。
彼女に対して物凄く酷いことをしているのは充分に分かっている。
だけど別れを言うのが怖くてたまらない。好きなのに。愛しているのに。俺は彼女を傷付けてしまう。

千秋と初めてご飯食べに行った日を思い返す。
俺はただ千秋を自分のものにしたかっただけ。でも彼女はあの日から苦しんでいただろう。好きだけではどうにもならない事がある…それが現実なんだ。
涙が出た。

逃げてばかりじゃいけない。俺は千秋に電話した。


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