第22章 なんてこと!目眩がしてきたわ。-1
ケーキとお茶を運ぶメイドと共に、シンプルなワンピース姿の愛子が現れた。柔らかな笑顔で挨拶をする愛子は、落ち着いた大人の色香を纏い、女性のひたぎでさえ見とれるような魅力的な女性だった。愛子はケーキの説明を終えると言った。
「ところで昴さん、瞳さんがお帰りになられたわ。二人でご挨拶されたら如何かしら?」
「瞳さんがお帰りに・・・ひたぎ、瞳さんを君に合わせたいんだ。いいかい?」
ひたぎの同意を得て、二人で階段を下りていく、ホールの向こうの背の高いドアを開けると広い空間に背の高い女性が立っていた。
スレンダーな体に漆黒のドレスを纏い、腰まで伸びた豊かな巻き毛はドレス以上に黒く、まだ明るいというのにのにワイングラスを手にした立ち姿は、荘厳といってもよいほどだった。
女性が豊かな黒髪を揺らして、ゆっくりと振り返る。
黒髪に覆われていた上半身があらわになる。あまりにも美しい肩から首筋へのライン、整った顔立ちに浮かぶ表情は自信に満ち溢れ、その全身から匂い立つような大人の色香を放っていた。瞳の視線がひたぎを捉える。その圧倒的な圧力にひたぎは思わず息を呑んだ。
昴にちらりと目をやると動揺で固まっている。ひたぎは意を決して自ら女性へと歩み寄り、話し始めた。
「はじめまして、三蜂ひたぎです。昴さんから交際を申し込まれて、お付き合いしています」
「この家の弁護士をしている三枝瞳よ。つまらない娘なら別れさせてやろうと思っていたけど・・・気が変わったわ。昴をよろしくね」
「どうして、気が変わったのですか?一目で私が分かったのですか?」
「歩く姿に立ち振る舞い、育ちが良くて賢いようね。私を前にして気後れした素振りさえ見せないわね。いい度胸よ。そして、あなたのその瞳は、上辺じゃない真実を見つめようとしているわ。それで十分よ。
昴。このお嬢さんを一流の女性としてしっかりとエスコートなさい。失礼があったら私が許さないわよ。でもどうかしら?案外、袖にされるのは昴の方かもしれないわね?帝には、私から話しておいてあげるわ。励みなさい」
「は、はい!」
言い終わると瞳は、一人奥の部屋へと消えていった。
昴の部屋へ戻るなり、ひたぎが昴に噛みついた。
「説明しなさいよ!」
「ああ、いやあ、普段はもっとその・・・」
「違うわよ。帝と言うのがあなたのお父さん。瞳さんはお父さんの愛人で、あの美貌を武器に正妻であるあなたのお母さんと同等かそれ以上の力を持っているのね?それから愛子さんもメイド長なんて嘘よ。あの女性もお父さんの愛人なのね?なんてこと!妻と二人の愛人を一つ屋根の下に住まわせているというの!」
「そんなにストレートに言わなくても・・・」
「もう、隠し事はないの?あれば全部白状なさい!」
「隠すつもりはなかったんだ。自慢できることじゃないからね?一応、言っておくと妹の麗香の母親が瞳さん。麗羅の母親が愛子さんだ」
「なんてこと!目眩がしてきたわ。妹さん逹もそのことを知っているの?」
「隠しようがないんだ。麗香と麗羅は同い年で誕生日は1ヶ月違いだからね」
「妻というものがありながら、他の二人の女性をほとんど同時に妊娠させ子供まで産ませたと言うの?ああ、頭がおかしくなりそうよ・・・それで終わり?」
「あと、秘書の優子さんとも関係があるかな?」
「会社にまで愛人を・・・・・」
「僕はそんなことはしない」
「あたりまえよ!そんなことをしたら皆殺しにするわよ!」
「でも、あの瞳さんが、よくそんな立場に甘んじているわね?あの気性で考えられないわ。あなたのお母さんもよ。どうしてなの?」
「いやあ、その辺のことはよく分からない。物心がついた頃には仲良く暮らしていたからね・・・でも、これが僕の家族なんだ・・・ひたぎのこともオフィシャルにしておきたかったし・・・嫌いになったかい?」
「あなたに責任のないことよ。あなたは、家のことは私が決めることだと言ってくれたもの・・・ただ、驚いただけ・・・」
「できれば、ひたぎのご両親にもご挨拶したいけど・・・どうかな?」
「そう・・・近いうちに機会を作るわ」
「あ、ケーキ食べるか?」
「いただくわ・・・」
「励みなさい。だって」
「言われなくても、そのつもりだし」
「一流の女性として、しっかりエスコートなさい。だって!」
「瞳さんがここまで、言うのは珍しい。やっぱりひたぎは凄いよ」
「私を好きになったのは・・・瞳さんに似ているから?」
「それは違う。僕は瞳さんに憧れていて、ひたぎの似ているところにも魅力を感じているけど、ひたぎの一番の魅力は真っ白なところだよ。どこまでも純粋なひたぎが好きなんだ」
「本当かしら?もし、瞳さんがお父さんの愛人じゃなくて、あなたに言い寄ってきたら断れる?」
「・・・・・」
「いててて!痛いったら!ほっぺたが千切れる!」
「どうして、即答できないのよ!」
「違う。想像するのに時間がかかっただけだ」
「嘘よ。あなたに限って、あり得ないわ」
「本当だ。ひたぎが一番だ!」
「じゃあ、ぎゅっとなさい」