第21章 一人じゃ怖いわ。昴、私の手を引いて連れて行って。-1
昴の家が見えてきた。噂には聞いていたが、それは正に豪邸だった。大きな門をくぐり、豪壮な扉の方へと歩いて行くと、中から扉が開き、一人のメイドが現れた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま。今日はお客様をお連れしたんだ。瞳さんと愛子さんはどうしている?」
「瞳様はお出掛けで夕方にはお帰りになります。愛子様はお客様の為にケーキを焼いておられます。後ほどお部屋の方へお届けしたいと申しておりますが如何でしょうか?」
「ああ、頼むよ」
吹き抜けのホールを抜け、広い階段を上る。二階に上がると長い廊下があり、その突き当たりの部屋が昴の部屋だった。部屋の広さもさることながら天井が恐ろしく高い。大きく高い窓には真っ青な大空が広がっていた。
「この場所が僕のお気に入りなんだ。ひたぎ、座ってごらん」
入口を背に、大きな窓に向かってL字型に並べられた巨大なソファーに、ひたぎは腰を下ろし体を預けた。
「まるで揺りかごのようね?」
広すぎる部屋の中で、高いソファーの背もたれに守られ、優しく抱きしめられているような感覚に包まれる。窓の外へ目を向けると、庭の木々の向こうにただ青空だけがどこまでも大きく広がっていた。昴が窓を開ける。爽やかな風が流れ込む。
「空がこんなに広い。少し冷たい風がとても心地よい。先程まで見上げていた空と触れていた風がまるで別もののよう・・・空に吸い込まれそうよ。目を閉じると風が頬を叩いて・・・ああ、あなた、私の手を引いて、あの広い空へ私を連れ出して・・・そんな気持ちにさせられる」
ひたぎが背中を起こし、大きな瞳で真っ直ぐに空を見詰める。
「あの空の向こうには、私逹が知らないことが沢山あるのでしょうね?想像もできないような出来事に出会って、私達は何を考え何を思うのかしら。興味が尽きないわ。それを探しに行きたいけと・・・一人じゃ怖いわ。昴、私の手を引いて連れて行って」
「ああ、ひたぎ。君が語ると世界が別ものに見えてくる。こちらこそお願いするよ。君は僕が守る。二人で一緒に歩いて行きたい」
昴がひたぎの手を握ったとところで、インターフォンが鳴った。