第20章 お上手なのは、この口かしら?-1
ひたぎの体のどこにコンプレックスがあると言うのだろう。ひたぎの立ち姿は誰もが見とれ、風格が漂うほどに美しいものだった。通った背筋に、モデルでもそうはいないほどの均整の取れた長い脚。肌は抜けるように白く、ウエストは細く、胸も腰回りも女性らしいラインを描いとても魅力的だった。体に傷でもあるのだろうか?それがどんなものでもひたぎへの気持ちは少しも変わらないと昴は思っていた。
授業を終えて、帰り道を二人で歩く。
「昴、綾乃さんと仲良くし過ぎよ!」
「ああ、綾乃な。文化祭の準備は、亜美と3人で日曜日に買い出しに行くことになった。今回の買い出しは重たいものが多いから男手がないとな。だから土曜日はひたぎに会いに行く。何を置いてもひたぎに会いに行く」
ひたぎが昴を睨みつける。
「あ、ああ、もちろん日曜日も買い出しが終われば、ひたぎに会いに行く。僕はひたぎが一番大切だからね。あはははは!」
「そう言うことじゃないの。綾乃さんのあなたが大好きオーラをなんとかなさい!」
「そ、そうか?そんなオーラは感じられないような?」
「私を起こらせたいの?」
「けして、そんなことはない!!!
なんとかする。なんとかしよう。ハッキリとしておかないと、綾乃の為にもならない。早速、明日話しをしよう。」
「本当ね?」
「約束する」
「そっ! それなら今日は、約束通り私の体を見せてあげます」
「ああ、そ、そうだったな」
「興奮し過ぎないように・・・プロポーションには自信があるの。食べると太りやすい体質だから普段から努力しているのよ」
「どうして、そんなに切り替えが早い?」
「なによ。嫌なの?」
「いやじゃない。大歓迎だ!」
「ところで、今日はあなたのお家へ招待してくれると言うけれど、お母さまはいらっしゃるの?」
「ああ、母は海外出張中の父に同行しているから、家にはメイド逹と先生だけだね。妹の麗奈と麗香も留学中でいない」
「ご家族が皆お出かけではあなたも淋しいわね。先生とは、どんな方かしら?」
「先生は弁護士で、法律や経営の観点から父の仕事の手伝いをしてくれている。僕の勉強を見てくれる家庭教師でもあるんだ」
「もしかして、女の人?」
「そうだよ?」
「綺麗な人?」
「ああ、瞳さんは普段はにこやかだけど、考え事をしていたりすると恐ろしく綺麗だよ。あ、ああ、でも、僕に取っては母親みたいな人だから・・・」
「そう・・・メイドさんは何人いらっしゃるの?」
「3人メイドにメイド長の愛子さんの4人だね」
「瞳さんの次は、愛子さんね・・・その方も魅力的な女性なの?」
「ああ、愛子さんは世界の料理に精通しているシェフでもあるんだ。普段は3人のメイドに料理を任せているけど、父のリクエストで腕を振るうと、これがもう絶品なんだ。もちろん料理以外も家の中の全てを取り仕切っていて、凄いのは花々の使い方かな。季節花々で部屋を彩るのはもちろん、その日の料理や天候によって香を巧みにコントロールしている。例えば父が疲れて帰ってくる日には、とてもリラックスしてくつろげる空気を作り上げて出迎えるんだ。そんな才能に溢れる愛子さんだけど、控えめで、とても可愛いらしい女性なんだよ」
「・・・・・お母さまは、いらっしゃる時は何をしているの?」
「母は、いろんな関係で外出していることが多いけど、家にいる時は絵を描いていることが多いかな?そうでもなければ、愛子さん逹とおしゃべりを楽しんでいるね?」
「どんな方?綺麗な人なんでしょうね?」
「美しい人だ。生き方そのものが柔らかい。どこか儚げで、手を差し伸べてあげたくなる。そんな女性だよ」
「綺麗な女性に囲まれて、幸せね?」
ひたぎが口を尖らせて言った。
「ひたぎに比べれば、大したことないけどな!」
「お上手なのは、この口かしら!」
「いててて、痛いったら!僕のせいじゃないだろう!」
「分かっているわよ。それでも無性に腹が立つの!」
「痛いったら!もう、気が済んだろう?」
「そうね・・・もう一つ聞くけど、あなたも結婚したら、先生を家に入れたり、メイドを何人も雇うのかしら?」
「それは、ひたぎが決めることだよ。ひたぎの望む家で、ひたぎの望む家庭を作るんだ。僕はひたぎが居てくれればそれでいい。って、もしそうなったらだけどな」
「そう・・・優しいのね・・・」