幼女仮面-2
僕は回想をやめて現実の公園を見た。すると白いワンピースが見えた。
「まさか」
僕は思ったが、そのまさかだった。
カナエが白いレースの縁取りの帽子とワンピースの姿で現れた。
学校は? 違う学校でもそんなに学期の始まる日にちに違いはないはずだ。
僕は公園に行った。何故かカナエと2人きりになることに期待をしていた。
決して不埒なことを考えていた訳じゃないが、カナエとは殆ど口を利いたことがなかったから、話だけでもできればと思った。
「カナエちゃん、まだ学校は始まってないのかい?」
「おにいさん、わたしが来たらめいわく?」
「い……いや、そういう意味じゃなくて」
「わたし……学校に行ってないの。でも家にもいづらくて」
「家って親戚の?」
それには黙って頷くと、カナエは両腕を抱えるようにして体をプルプルと震わせた。
「な……なんか寒気がする」
「それはよくないな。家に帰って休むと良いよ」
僕は言ってしまってからあっと思った。
「だから家には行きたくないんだって……おにいさん、ひどい」
「ひどいって……?」
「おにいさんの家にはぜったい入れてくれないんでしょう」
「そんなことは」
「だって、今までもこどもたちをぜったい中に入れなかったじゃない」
「それは、僕の家じゃないから。借りてるだけだから」
「わたし、ほかの子どものようにバカじゃないよ。家の中のものをいじったり、走り回ったりしないもの」
本当はそういうことも心配してたのだが、カナエと2人きりだとまずいと思ったからだ。
「それにおにいさんはシンシだから、わたしアンシンしてるよ」
それも言われて、もう断る理由はなくなった。
「それじゃあ、ちょっとだけ入って休んで行くかい? 温かい紅茶でも入れてあげるよ」
「あっ、それならわたしに入れさせてくれる」
「ああ、構わないけど」
カナエは玄関に入ると靴をきちんと向きを直して揃えてから『お邪魔します』と挨拶した。
タマエがカナエのことを『おとなびている』と言った意味がわかった。
案外上流の家庭の子かもと思ったが親戚の家に世話になっているのでは貧しい筈だ。
けれども服装がいつも真新しくお洒落なのを見ると、貧しい訳がないとも思える。
カナエが別荘の中に入ると、妖精が中に入り込んで来たような華やいだ空気になった。
それは別荘の雰囲気にもフィットしていて、僕だけが浮いた存在にさえ思えた。