一生分の恋-5
次の日の朝、亜梨紗に電話した。
「亜梨紗?」
「うん....」
「純だけど......」
「.........」
亜梨紗が緊張しているのが俺にも伝わってくる....
「あのさ....今日って......」
「......いつもと同じ......学校に行ってピアノのレッスン......」
「そう....わかった......」
「えっ?」
「何?」
「この前の返事じゃ......」
「それは直接逢って......」
「そう....」
「うん....じゃ.....」
俺はそう言って電話を切った。
2時過ぎ俺は亜梨紗が通う星聖の校門の所で立っていた。ピアノの音が響いていたので亜梨紗はまだいると思う......たぶん......
3時を過ぎると下校する女の子も多くなり、中には訝しげに俺を見つめる女の子もいた。
「拷問だな......」
俺は呟いていた....体の芯まで冷えきった頃、この学校で唯一の知り合いであろう二人が歩いて来た。
「亜梨紗!」
俺の声に名前を呼ばれた女の子は驚き....そして固まった。
「純君!」
もう一人は嬉しそうに近寄って来た。
「どうしたの?こんな所で!」
「亜梨紗を待っていた.....」
「そんな事しなくても....待ち合わせの場所を決めるとか、電話とかメールしてくれれば亜梨紗を連れて来たのに......」
「ありがとう......瑞希ちゃん......亜梨紗の邪魔はしたくなかったんだ......」
「えっ?まさか.....」
瑞希ちゃんの顔色が変わった。
「返事....聞かせてくれるんだろ?」
亜梨紗が覚悟を決めたような表情で俺に近づいて来た。
「ああ....」
「ちょっと待ってよ!こんな所でする話じゃないでしょう?場所を改めよう!」
瑞希ちゃんに連れて来られたのは星聖の女の子で賑わうカフェだった......
「でっ....返事は?」
亜梨紗がいきなり切り出した。
「ちょっと!いきなり?少しぐらい世間話をしても......」
瑞希ちゃんは抗議したが
「死刑判決を言い渡されるアタシの身にもなってくれ!」
瑞希ちゃんの申し出はアッサリと拒否された。
「私....席を外すね....」
瑞希ちゃんが離れたのを確認すると、覚悟を決めたように亜梨紗が口を開いた。
「正直に言ってくれ!気を遣わなくていいから......」
「ああ......」
俺は一度大きく息を吐いて
「あのさ....亜梨紗はなんで俺が断るという前提で話しているの?」
「えっ?だって....ありえないだろ?」
「なんで?」
「なんで?って....えっ?......えっ?......」
亜梨紗の表情が驚きの表情に変わった。
「俺......亜梨紗が好きだよ......」
「えっ?......えっ?......ウソ......」
「ウソじゃない......」
「でも......私....亜梨紗だよ....茉莉菜じゃないんだよ....」
「わかってるよ!そんな事!」
亜梨紗の目に光る物が見えた。
「でも......でも......」
「なぁ....亜梨紗は俺にフッて欲しかったの?」
「そんな事あるハズないだろ....」
「じゃぁ....なんで?そんな事言うんだよ......」
「だってアタシ....茉莉菜と違って女の子らしい所は無いんだぞ!」
「知ってる....って言っても一年半前の亜梨紗だけど....」
「残念だけど....今もあの頃と変わらない......」
「でもそれはピアノ一筋に打ち込んできたって事だろう?」
「そうだけど....」
「だったらいいじゃない?」
「そうかな......」
亜梨紗は照れたような表情をしていた。