結衣の料理(PW4版)-1
【結衣の料理(PW版)】
一夜が明けて、目を真っ赤にした裕樹が階下のリビングに行くと、これまた真っ赤な目をした結衣が座って紅茶を飲んでいた。
「お、お姉ちゃん、おはよ…」
裕樹は思い切って声を掛けたが、結衣は真っ赤になった顔を俯かせて返事もしなかった。
「あら、裕樹が『お姉ちゃん』て呼ぶなんて珍しいわね。ん?あれ?裕樹も目が真っ赤じゃないの。2人揃ってどうしたのよ?」
母親の由紀子が裕樹の食事を食卓に運びながら言った。
「えっ…え〜と、ほら、あれだよあれ、ゲーム。昨日お姉ちゃんと一緒にゲームしてたんだ」
「そうかあ、仲がいいわね。けどその割には全然楽しそうに見えないけど」
さすが母親は鋭かった。
「そ、それは、オレがズルイことしてお姉ちゃんとケンカになったんだよ。なっ、結衣姉ちゃん、そうだろ?」
突然振られた結衣はピクリと反応した。そして赤くなった顔を俯かせてコクコクと頷いたので、裕樹はホッと安心をした。昨日のことを親に告げ口されるとさすがに家に居辛くなってしまう。
「そうかあ。けど、お父さんもお母さんも今晩から居ないけど、そんな状態のあなたたち2人で大丈夫かな?」
「えっ?居ないってどう言うこと?」
慌てた結衣は由紀子に顔を向けた。
「前から言ってたでしょ。ホラ、暮れに商店街のくじ引きでペアの温泉一泊旅行が当たったでしょ。それを今日行くって」
「う、うそ…」
結衣は真っ赤になった顔をピクピクとひくつかせた。
「まっ、あたしたちは居ないけど、たまには姉弟水入らずで仲直りでもしときなさい」
こうしてドラマの舞台は都合よく用意されるのだった。
しばらくして両親は嬉々として旅行に出かけ、裕樹も寝不足の目を擦りながら、クラブのために学校へと出かけた。
結局この日の結衣は、真弓との約束を果たせないこともあり、学校にも行かずにクラブも休んでしまった。
『昼はおそばがあるから、それを食べてね。晩御飯は結衣ちゃん悪いけど、有る物を適当に使って、裕樹の分も作ってあげてね』
結衣は由紀子に言われたとおりには、昼食を作って1人で食べた。裕樹の分も用意していたが、当の裕樹は夜まで帰って来なかった。
「ただいま…」
夜の10時を過ぎた頃、裕樹はこっそり帰ってきた。
裕樹の思った通り、この時間にリビングには結衣の姿は無く、裕樹はホッと胸をなでおろした。いつも優位に立つ結衣のあの泣き方は裕樹にとって凄く衝撃的だった。結衣に対する罪悪感で、2人っきりで顔を会わすことができなかったのだ。
ダイニングのテーブルの上を見ると、結衣が用意していた料理が並んでいた。裕樹の好物で結衣の得意なハンバーグだった。
結衣がどんな想いで自分の食事を用意したのかを想像して、またしても裕樹の心に込み上げるものがあった。
レンジでハンバーグを温め直し、鍋にあったこれもまた裕樹の好物のクリームシチューを温めた。
朝食べてから何も食べてないので、空腹のはずだったが全く食欲が沸かない。しかし、せっかく結衣が作った料理を無駄にすることが出来ない。裕樹は気を取り直して一口入れた。
「うまい…」
一旦口に入れると一気に食欲が湧きだした。「うまい、うまい」と言いながらガツガツ食べている内に少しは元気が出てきたようだ。
食後の片づけをしてから、浴室に向かった。