性格の似た2人(PW4版)-1
パラレルワールドをご存じでしょうか。所謂多重世界のことですね。
この世は複数の同一世界が隣り合っている。
だが、ホンの僅かな時間軸にズレがあることによって、隣り合う世界が同一に存在しながらも干渉することはない。
しかし、その時間軸の僅かなズレにより、同じ世界であっても少しずつどこかが違っている。
今回の結衣たちの会話が苦手な方に、別次元の言語を使う結衣たちの世界をご紹介します。
但し、極々近いパラレルワールドなので進行するドラマの内容は同じです。読み進んで「中身同じじゃないか!」と怒らないで下さい。
別次元の結衣たちの躍動をご堪能下さい。
【純情姉弟 結衣と裕樹(クラス1-AA)】(PW版)
【性格の似た2人(PW版)】
稲川結衣(いながわゆい)と裕樹(ゆうき)は一つ違いの姉弟だ。
母親である由紀子のハキハキとした性格は、男女の性別を問わず2人とも譲り受けたようで、小さい頃より些細なことで姉弟は幾度も衝突を繰り返してきた。
「チビのクセに生意気言うな!」
「誰がチビって、そっちこそブスでペチャパイのクセに!」
「なんだと―――!」
こうして始まる衝突の結果、裕樹が悔し涙を流して終わることは毎度のことで、1年差ではあるが歳の功によって、身長と体力の勝る姉の結衣に軍配が上がるということだ。特に結衣の成長は早く、背の順番に並ぶと、いつもクラスの最後になった。反対に裕樹の方はいつも前の方だった。
しかし、物心の付いた頃から繰り返されてきた取っ組み合いの日々も、結衣が中学に進学してからパタリと止まった。結衣が口と手を出さなくなったからだ。
その原因は結衣が中学に進学してからの新たな交友関係において、異性の目を気にする事を覚え始めたことにある。一番の切欠は入学の間も無いある日の放課後のことに起因する。
その日、下校途中に同じ小学校出身の男子生徒Aから
「こいつって可愛い顔してるけど、直ぐに手が出るから気をつけろよ」と、新しく出来た友人たちに結衣の手の早さを暴露された。
結衣の通う地域の中学校は、三つの小学校の卒業生が進学する。当然、他の小学校出身の新しい友人たちは、まだ結衣の性格を知らなかった。
結衣は当然のように、小学校時代のノリのまま、速攻でその男子生徒Aの胸倉を掴んで締め上げた。
「今何て言ったの?人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「い、いたい、やめろ」
「うるさい、バカ」
結衣の握り拳が男子生徒Aの頭に落ちた。
「ぎゃっ!」
しかし、間の悪いことに、入学式早々に結衣が仄かに思いを抱いていたイケメン男子生徒Bに、その様子をしっかりと見られていたのだ。
驚いた表情のイケメン男子生徒Bと目が合ってしまった結衣は、男子生徒Aの胸倉をつかんだまま、もう一方の手の拳を振り上げた状態でフリーズした。
「ほ、ほほほ、こ、これは違うのです」
頭に血が上った結衣は、取りあえず言い訳をしたが、何がどう違うのかわからないイケメン男子Bは目を見開いたままで固まっていた。
その視線にさらに頭に血が上った結衣は、恥ずかしさの余りに胸倉を掴んだ男子生徒Aを突き放し、自分のカバンを手にして、真っ赤になったまま脱兎のごとく駈け出した。
結局、イケメン男子Bには小学校時代から交際する大和撫子Cが居ることが後に判明し、結衣の淡い初恋は実らないまま終わった。
しかし、結衣はこのことを痛切に反省した。今後巡り合うであろうイケメン男子Xに備えるために、普段から地が出ないように、今までの行動を改めようと思ったのだ。
「先ずは一番手を出しやすい裕樹を叩かないように我慢我慢…」
初めは無理そうだと思われたが、結衣の決意は固かった。実際、双方が乗らないと取っ組み合いのバトルへは進化はしない。それに中学生になって裕樹と別々の部屋になったことも、衝突の切欠を減らすことにもなっていた。
それでも、しばらくは生意気な弟に腹が立つことが多かったが、その都度まだ見ぬイケメン男子Xを思い浮かべながら結衣は耐えた。
やがて結衣は入部した軟式テニス部のクラブ活動が忙しくなり、そうそう裕樹に構う時間も無くなってきた。
そんな平和な中学時代を経て時は流れ、現在結衣は高校2年生になった。
結衣の身長は160cmに達するとピタリと止まり、その分、「ペチャパイ」と揶揄されていた部分が大きく成長をした結果、美しい女性へと変貌を遂げていた。
裕樹の方も高校1年生となり、結衣と同じ高校に通うようになった。裕樹もかつての「チビ」では無く、こちらも逞しく成長したのだった。