広がる不安-6
「二岡君....」
美菜お姉ちゃんが呟いた。
「美菜お姉ちゃん?この人は?」
「同じクラスで、葛城君の友達の二岡君よ!」
「宜しくね!三崎さん!」
二岡さんが私の名前を知っていて驚いた。
「えっ?どうして私の名前を....」
「ウチの学校の男子で、姫川美菜と三崎笑美を知らない奴なんかいないよ!」
二岡さんはそう言って笑っていた。
「だから言ったでしょ!笑美ちゃんは人気があるって!」
美菜お姉ちゃんも笑っていたが自分でも信じられなかった。
「俺としては....我が校の二大アイドルに好きになってもらっているという贅沢な状況に気づかない葛城が信じられないけどね!」
「えっ?」
私達は同時に声をあげた。
「見てればわかるよ!冗談のように手紙を渡していたけど....真剣だったからね....姫が葛城の事好きだってすぐにわかったよ!」
「二岡君....」
「だから....これが最後だ....姫川さん!俺はあなたの事が好きです!俺とつきあって下さい!」
「ゴメンなさい....」
「チェッ!即答かよ....わかっていたけどキツいな......」
「ゴメンなさい....」
「いいよ....ケジメをつけないと前に進めないからな....変な期待を待たされなかっただけ感謝してるよ!」
二岡さんはそう言って笑っていた。
「本当はこんな事....言いたくないんだけど....彼女の事は心配しなくてもいいよ!」
「えっ?」
「彼女は柴咲瑞希(しばさきみずき)って言って、俺の中学の同級生なんだ....柴咲は中学の頃から....ううん小学生の頃から好きな奴がいて....今..そいつとつきあっているんだ....」
「その人が隼人って人?」
美菜お姉ちゃんが二岡さんに聞いた。
「うん....鷹匠隼人(たかじょうはやと)って言って葛城がボクシングをやってた頃のライバルで親友なんだ....」
「私聞いた事ある!確か全国大会の決勝で戦った相手じゃ....純兄ちゃんが言ってたような気がする....」
「その通りだよ!柴咲はそいつに夢中だから....仮に葛城が柴咲の事を好きになったとしても安心していいよ!」
「でも....今はその彼に夢中でも....純兄ちゃんの事が好きになったりしないかな....」
私は不安を口にした。
「その可能性はゼロではないけど....そんな心配をする前に葛城を振り向かせないとな!」
「それが一番の問題なのよね....」
私と美菜お姉ちゃんは同時に口にした。
「笑美ちゃんだけでも大変なのに....どうして次から次へとライバルが現れるのよ....」
美菜お姉ちゃんが大きなため息をついた。
「姫?柴咲はまだライバルじゃないんじゃ....」
二岡さんの声は美菜お姉ちゃんに届かなかった....そして私にも....
そんな私達の不安は現実の物となった....
「ねぇ?純君....今晩空いてる?両親が昨日のお礼をしたいって....」
次の日の朝、柴咲さんが登校途中の純兄ちゃんに話しかけてきた。
「お礼なんていいよ!気にしないで!そんな事されるとこっちが困るよ....」
「ウチで食事でもって母が言ってたんだけど....」
「瑞希ちゃんの両親と食事だなんて....緊張しちゃうからいいよ....ゴメンね....」
「それもそうね....それじゃあ....今度の土曜日にみんなで遊園地にでも行くんだけど....どう?あなたも行かない?」
柴咲さんは私を見た。
「あっ!でも....二人でどこか行く約束でもしてた?」
「そんなわけないだろう....彼女でもないのに....」
純兄ちゃんは慌てて否定した。
(そんなにすぐに否定しなくても....)
私は少し不満に思った。
「それじゃあ....もう一人のほうかな?」
「えっ?」
「ほら!昨日一緒いた綺麗な子だよ!」
「えっ?あっ!彼女も違うよ!」
「えっ?そうなの?それじゃあ....純君はまだ....」
「うん....残念ながら....」
「それじゃあ..別にいいじゃない?」
「えっ?でも....」
純兄ちゃんは少し躊躇っていた。
「あっ!別に二人で行こうって言ってるんじゃないの....亜梨紗も来るし....クリスマスパーティーに来ていたメンバーが来るから!隼人君は来れないけど....」
「ハハハ....それは残念だね....でもみんなが来るんなら俺も行くよ!しかし亜梨紗が遊園地に来るなんて....意外だなぁ......」
「そう?私は別にそう思わないけど....」
「えっ?でも亜梨紗っていつも素っ気なくって.......」
「それは純君の前だけよ!」
「えっ?」
「ううんなんでもない.....それじゃ約束よ!詳しくは後でメールするから!」
「うんわかった!」
柴咲さんは走って行った。
「あっ!そうだ!笑美ちゃんも行く?」
純兄ちゃんは誘ってくれたが
「ゴメンなさい....もう友達と約束してるから....」
「そう....それは残念だね!」
「うん....」
後で私は純兄ちゃんの誘いを断った事を後悔した....知らない人ばかりなら純兄ちゃんとずっと一緒にいられたのに....なんで断っちゃったんだろうと....
私の不安はますます広がっていった。