青の荒野-5
五年という歳月が彼女を成長させたのだろうが、外見以外にもこんなに大きなところでティアラは変化をしていた。
これにはさすがのガレットもお手上げ気分になってしまう。
「あの一年間以上の危険さは間違いないぞ?」
「うん…覚悟してる。」
「オレだって、いつ死ぬか分からない。」
「普通に暮らしていてもそうだから…。」
「守れないかもしれない。ティアラより優先させるものがあるかもしれない。」
「うん…。」
「一度踏み入れたら…二度とこっち側には戻れないぞ?」
「今までの人生、半分は軍で過ごしたようなもの…ガレットの傍にいるにはこれが一番いいの。」
木のぬくもりが感じられるこの部屋にティアラの声がやさしく響き渡った。揺るぎない強い眼差しにガレットはやがて白旗をふることになる。
一度大きなため息をつき、呆れながら呟く。それでもどこか嬉しそうだった。
「いつのまにこんなに頑固になったんだか。」
ガレットの呟きにティアラは笑顔で応えた。この木のぬくもりが感じられる部屋に不釣り合いなパソコンのうなる音。パソコンの存在は明らかに浮いていた。
ティアラの向こうにあるパソコンに目を向けるガレット。これを手配したのはおそらくアレフであろう。半年も前からこの日の為に準備をしていたのだ。
ガレットに何ともいえない気持ちが渦巻く。できればティアラには、この部屋のように暖かで平和な場所に暮らしていてほしいのだ。
「あの時のオレの決意はなんだったんだ…。」
絞りだされた気持ちはティアラの耳には届かなかった。俯き、彼女に伝える言葉を考える。パートナーは必要だった。彼女のパソコンの才能は一緒に過ごした日々で立証済みだ、ガレット自身がそれをよく知っている。
「オレの言う事はちゃんと聞くんだぞ?」
そう言って顔を上げティアラの目を見た。彼女の顔が赤くなり最高の笑顔を見せる。今まで見たことない表情だった。
「うん。ありがとう、ガレット!」
ある種の敗北宣言みたいなものだった。そしてやっとガレットは部屋の中に足を踏みいれ、すっと右手を差し出す。ティアラは手の届く距離まで歩み寄り右手を出す。
まるで誓いのように二人は握手した。
「よろしくな。」
「よろしく…。」
かたく握り合ったまま二人は微笑んだ。五年前別れたときとは違う二人がそこにいる。
「シャオ!」
ガレットはその場でドアに向かって叫びカウンターにいるはずのシャオを呼んだ。思わぬガレットの行動にティアラは驚きながらも見守った。