青の荒野-4
笑顔で見送られ、ガレットは奥につながるドアに手をかけゆっくりと開けた。
中には背を向けてパソコンを操作している女性の姿があった。ドアが開かれたことに気付いている様子はない。その後ろ姿にうっすらと昔の姿がよみがえる。
ガレットはあえてノックで自分の存在を知らせた。
コンコン
「はい。シャオ?ちょっと待って…。」
「ティアラ。」
名前を呼ばれてティアラは動きを止め、勢い良く振り返った。そこにいたのは、五年前よりもはるかに逞しくなったガレットがいた。
あまりの突然の出来事に、大きな瞳がさらに大きく見開く。
「…ガレット?」
「久しぶり、綺麗になったな。」
正直な感想だった。別れた頃とは違い、少女は大人の女性になっていた。目の前に現れたガレットに驚いて顔を赤くしているあたりは変わりない。
「アレフ…ジェラード少佐から、今日辞令が下って…EFに配属されることが決まった。で、そのパートナーにティアラをって。」
「う、うん。少佐が半年くらい前に来て、研修受けてほしいって。」
「とんだ確信犯だな。オレだけ何も知らされてなかった。…ティアラ、率直に言うとオレは反対なんだ。」
ガレットはドアの傍から動かずに話を続ける。その表情はどこか寂しげだった。怒っているわけではない、困っているといった表現のほうが適切だろう。
「オレさ、どんなにティアラに会いたくても我慢してきた。オレといたら間違いなく危ない目に合うし、ティアラにこっち側に来てほしくなかったから。」
「ガレット…。」
「かたぎの方にいな?EFの仕事はオレにも想像がつかない。危ない目に合わせたくないんだよ、ティアラの気持ちは本当に嬉しい。嬉しいけど、やっぱり賛成は…。」
「少佐から…聞いたの。ガレット…この町の近くまでよく来てるって。私のことを見守ってくれてるって。凄く…嬉しかった。」
ティアラははにかみながら言葉を綴った。ガレットの予想に反して彼女は穏やかだった。
「…遠くで心配するより近くにいたい。…一緒にいるには…いい方法でしょ?」
時が止まった。
ガレットは今ティアラから出された言葉を理解するのに時間が必要だった。
時の流れがティアラを大人に変え、声も落ち着いたトーンになりより一層彼女の雰囲気をよくさせた。
ガレットがよく近くまで来ていたことを知っているとか、そんなことより驚くべき事を言ったのだ。
ガレットと一緒に居たいと、そう言ったのだ。
少なくともガレットがティアラと過ごした日々の中で、ティアラがこれほど強く自分の意見を主張したことはなかった。