それぞれの世界-9
でもその瞬間、塁があまりにもスマートに女の子の腰に手を回すのが目に入る。
付き合ってる時ですらあたしにしなかった仕草。
あたしはそれを見た瞬間に全身が強張って動けなくなった。
即座に訪れた敗北感はあたしの肩にのしかかり、急に視界がグニャリと歪んでその場にしゃがみ込む。
身体だけの関係にしようと言った塁に対し、あたしはそれを受け入れた。
それを受け入れた以上、あたしには塁が誰を好きになったって文句を言う筋合いなんてなかったんだ。
それでも今までなら身体を重ねているのはあたしだけだったからよかった。
だから、自分が特別な存在であると思っていたけど、それはあたしの完全な思い違いで、塁はあたしの知らない所で、ちゃんと自分の世界を作り上げていた。
あたしは塁との世界だけで充分だったのに、置いてけぼりを食らわされたあたしは、たまらなく独りぼっちだったことに気付いてしまった。
「具合悪そうだけど、大丈夫ですか?」
小さな男の子を抱っこした女の人があたしに心配そうな顔を向ける。
この人だってきっと伴侶に愛され、笑顔の満ち溢れた世界があるんだ。
そう思うとたまらなく苛立ってしまい、あたしは女の人の言葉も聞こえない振りをして、その場から離れた。