それぞれの世界-8
塁は女の子の隣でニコニコしながら、パッケージを取り出して楽しげに話している。
塁が手に持っていたのは、あたしが前に塁にオススメした恋愛ドラマ。
あの時の塁は興味なさそうな顔してたのに、何で今さらそれを手にとるの?
女の子がパッケージを覗き込んで何やら頷くと、塁は中のDVDを取り出し始めた。
あたしとは一緒に観ようとしなかったくせに、その娘とは自分から選んで観ようとしている。
たったそれだけのことだけど、格の違いを見せつけられてしまった気がする。
あたしはラブホの中でしか塁に会えないただの都合のいい女で、あの娘はこんな街中で肩を堂々と並べて歩けて。
あたしは、知らず知らずのうちに、思いっきり唇を噛んでいた。
あたしが今まで恐れていた“塁に好きな人ができて、あたしが捨てられる”、それが現実のものとなってしまった。
塁が遠くに行ってしまうのは、嫌だ。
何としてでもあの二人の邪魔をしてやらないと。
今なら塁のとこに行って、
「あれ、塁じゃない。
ああ、その娘と会ってたから、今日ホテル行こうって言ってもダメだったんだ〜。
じゃあ、また別の日にしようね」
なんて、修羅場を引き起こしてやることもできる。
どうせあの娘に塁を取られるくらいなら、全てめちゃくちゃにしてやる。
そんな勢いであたしは、一歩足を踏み出した。