それぞれの世界-10
そしてゲームソフトが並んだ棚の陰に隠れながらレジの様子を伺う。
塁は、紺色のレンタルビデオのロゴが入った小さなバッグを店員から受け取ると、今度はあの娘と手を繋ぎながら店を出て行った。
二人の後ろ姿を見送っていると、嫉妬の炎がメラメラと湧き上がってくる。
レンタルしたDVDを見るってことは、どちらかの家に上がるってことだ。
いちゃつきながら画面を観ては、“この展開は有り得ない”とかケチつけたり笑い合ったり。
腰に手を回すくらいだから、ドラマを見終わった頃にはきっといい感じになって……。
その先のことは想像したくないのに、気付けば勝手にあの娘が塁に抱かれる様子が頭の中に浮かんでくる。
……あたしの方が塁を満足させて上げられるのに。
“他の女にはこんなひどいことできねえな”って言われるくらいの恥ずかしいことだって、塁のためにしてきたのに。
それでもあたしはあの娘に負けてしまった。
きっと塁は、あの娘を壊れ物を扱うように優しく抱くと思う。
あたしを好きでいてくれた時の塁がそうだったから。
その頃の幸せだった自分と今の自分を比べると、今の自分がたまらなく惨めになり、嫉妬に燃えていたあたしの心は、不完全燃焼のようにくすぶってしまった。
あたしはもうDVDを借りるなんて余裕はなくなり、重い身体を引きずるように店を出た。