Mirage〜1st contact〜-14
「神崎くん、優しいな」
──ずきん。
僕の胸の奥が痛んだ。理由は、わからない。少なくとも原因は、僕の目の前の少女の紡ぎ出す言葉にあるということを、僕の一番人間めいた部分が教えてくれる。
パンパンパンパン‥‥
僕と筑波は、全く同時に空を見上げた。そこにはスターマインと呼ばれる、スピーディーで不規則な花火が、空中で踊っていた。どうやら、花火大会は、大詰めを迎えているようだ。
視線を少しだけ落とすと、筑波がその色鮮やかな炎の花を、微笑を浮かべて見入っていた。
僕はこの時の彼女の美しく、淋しげな横顔を忘れない。硝子細工のように脆く、儚い芸術品。僕の指先が触れてしまえば簡単に壊れてしまう。そんな気がした。
僕は軽く唇を噛み、金網に身体を預ける。ぎし、という少し頼りない音も、今は気にならない。
──ドォ‥‥ン。
最後の花火が、夜空に咲いた。一際大きなそれも、やがて闇に溶けていく。
「‥‥終わりやな」
僕は金網から背中を離した。
「うん‥‥帰ろ?」
筑波が僕を見上げると、僕はゆっくりと首を縦に振った。
夏は、もうすぐ終わる。
けれど、僕は気付いていなかった。
僕の中で、何かが始まっていることに。