真弓の告白-1
【真弓の告白】
「なあ結衣、あのサッカー部の1年て、あんたの弟ちゃうのん?」
同じ硬式テニス部でクラスメートの真弓が、テニスラケットの素振りの手を止めて結衣に尋ねた。
「はあん?どれよ?」
結衣は気の無い返事をしながら、真弓の指差す方に顔を向けた。
「ほら、あの背の高い子。あれって裕樹くんやろ?」
真弓の指差す人物は、新入生の力を見るための紅白戦に参加していた裕樹だった。
「見て見てドリブルで上級生抜いたで、きゃあ、シュート!」
「おっ、決めよった。さっすがあたしの弟やな」
結衣も弟の活躍に満更でもなかったが、次の真弓の申し出にそんなほのぼの感は吹き飛んでしまった。
「なあ結衣〜、裕樹くんあたしに紹介してくれへん」
「へっ?」
「あたし、裕樹くんと付き合いたい」
「ま、真弓、何言うてんの?あんた正気か?」
「正気や。去年、結衣の家に遊びに行った時に裕樹くん居ったやろ。ホンマはあの時に一目惚れやったんや。けどあの時は裕樹くんて中学生やったから我慢しててん。でも同じ高校生になったからもう我慢せんでええやろ?」
真弓が畳みかけるように結衣に告白をした。
「ま、まじで…」
「大まじや。1-A、出席番号3番、稲川裕樹くん、8月1日生まれの15歳、リーダーシップのある獅子座、全部チェック済みや」
「い、いつの間に…。でもなんで裕樹なんかを?」
「結衣、何言うてんのよ。裕樹くんはバスケ部の赤木くんと並んで新入生でピカイチ人気なんやで。あんた知らんのん?」
「うそ!」
「うそちゃうで!ああん、あの子にあたしの処女奪って欲しいわあ」
遠い目をハートマークにしながら裕樹を見つめる真弓は、実の姉の前でトンでもないことを口走った。
「ア、アホなこと言いな」
真弓とは気が合うのだが、時折、際どいことを言うので、純情な結衣は対応に苦慮することがままある。最近では結衣の反応を面白がった真弓の言動はエスカレートする一方だったが、今回のこのストレートな発言に結衣は目を見開いて驚いた。
「アホなことちゃうで。ここんとこ毎晩のオナニーのオカズは裕樹くんやで。ああん、裕樹くんとおめこしたいわあ」
「ぎゃあ、ありえへんありえへん!何を口走っとんねんこの女は!」
「何て、おめこやん、お、め、こ。ああん、裕樹くん見てたら、おめこ濡れてきたみたい」
真弓はそう言いながら腰をくねらせモジモジしだした。
「わあわあわあ、聞こえへん聞こえへん聞こえへん」
結衣は慌てて真弓の口を塞ぐと、今の卑猥な発言が誰かに聞かれていなかったかを確かめるために周りを見渡した。
「むむむっ、ぷはあ、は、放して、息でけへんやんか」
「もうっ、恥ずかしいこと言うからやんか」
「別にいいやんか、あんたも可愛い顔して毎晩おめこ弄ってんねやろ…うっ、ぐぐぐぐっ…」
真弓が最後まで言えなかったのは、結衣に首を絞められたからだった。
しかし実際のところ、結衣をからかう真弓の卑猥な発言は別にして、実の弟を『男』として見たこともなく、真弓の告白は結衣にとっては『ゲー』と言った感想しか無かった。
「ゲホゲホ、わ、わかったもう言わへんから放して」
「もうホンマ頼むわ」
結衣は一気に疲れが襲ってグッタリとなった。そんな結衣にお構いなく真弓は元気だ。
「なあなあ、裕樹くんに彼女が居るか聞いてくれへん?」
「へっ?」
(裕樹に彼女が居るか聞く?あたしが?)
結衣はその状況を想像してみた。
「無理無理無理無理無理無理無理無理――――!いやや!そんなんよう聞かん」
「そんなこと言わんとお願い」
結局、両手を合わせて拝み倒す真弓に根負けをして、友人のために結衣はひと肌脱ぐ事になった。
「もうっ!強引なんやから真弓は!」
「ありがと。結衣ちゃん可愛いよ」
「はいはい…」ゲンナリ。
「あっそうや。もし裕樹くんに彼女居ったら、結衣があたしと付き合ってくれへん?」
「はい―――っ?」
本日何度目かの目を見開く結衣。
「だって結衣可愛いもん。失恋した時には可愛い結衣ちゃんに傷を舐めて欲しいわあ」
「アホか…」さらにゲンナリ。
「ついでに結衣の可愛いお口で、あたしのおめこも舐めて…うっ、ぐぐぐぐっ、ご、ごめん、もう言わん、ゲホッゲホッ」