自分のあまさ-5
◆
「じゃあ、伝えなきゃいけないことはこれくらいかな」
1時間ほど話したあと、めぐみ兄ちゃんは腕時計をちらっと見た。
その仕草にさえどきどきしてしまう。
「美優ちゃん、帰り大丈夫?送って行こうか?」
「・・・え、あ・・・だ、大丈夫です!」
声がうわずる。
慌てるわたしをそこまで気にした様子もなく、めぐみ兄ちゃんは、わたしの頭に手をのせ、ぽんぽんと軽く叩いた。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
ドアを開けてくれる。
動作のひとつひとつにどきどきしてめまいがした。
「あ、ありがとうございました」
平然を装うのを失敗したのは、今日何度目だろうか。
震える語尾を隠しながら、ぺこりと頭をさげた。
「あ、そうだ美優ちゃん!」
歩き始めた時、後ろからめぐみ兄ちゃんの声が聞こえた。
心臓が口から出そうになる。
恥ずかしさと不安と少しの期待を感じながら振り返った。
「次来る時は、俺のこと店長って呼んでね。さすがに兄ちゃんはもうやめてください」
その言葉がわたしの心にに引っ掻き傷を残すのはたやすかった。