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憧れのあまさ
【女性向け 官能小説】

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自分のあまさ-2






「やってみるだけやってみればいいじゃない」

お母さんの言葉に顔をあげる。
テーブルの上にはチラシが1枚。
近所にできるケーキ屋のお知らせで、一番下のスペースに大きく書かれた求人募集。

「やらない・・・」

やってみるだけ、なんて傍観者の言葉だと思う。
やってみるだけやってみて、だめだったときに責められるのはわたしなんだ。

椅子の上でひざを抱えたわたしは、置いていかれたあの日を思い出す。







陸上部、期待の星とか言われてたと思う。
走ることが好きだった。

そのことだけは、周りよりも自分が特別だと思うことができた。
好きなだけ走っていれば、ちやほやしてもらえる、なんて簡単に思っていたこともあったかもしれない。


自転車に乗っていたときに後ろから受けた衝撃は、スタートダッシュの背中に受ける風よりも、とてもとても強かった。
いつもなら風に乗れたのに、わたしはその風を制御できずに舞い上がった。

スタートの合図のピストルの音が聞こえた気がしたけど、それは自転車が地面に叩きつけられる音だったのかもしれない。
もしくは、わたしの体だったのかもしれない。



全治3ヶ月。
1ヶ月入院したあと、松葉杖をつきながら学校に行った日。
とっくに怪我の内容はみんな知っていたし、みんな優しく手を貸してくれた。
階段を登るのを手伝ってくれる友達。
荷物を持ってくれる友達。
心配してくれた友達。

「ありがとう」


置いていかれるんではないかと不安でたまらなかった。
人の顔色をうかがうようになった。
嫌われるのが怖くてしょうがなかった。


そんなわたしを、仲の良かった友達が心配した。
美優はこんな子じゃなかった、と。
じゃあ、あの日の走っていたわたしに戻して、何度も何度もその子に泣きながら言った。
混乱して曖昧な記憶の中に、かつての友達の哀れみの表情がこびりついている。



結局、高校は歩けるようになる前に中退した。








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