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憧れのあまさ
【女性向け 官能小説】

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その人はあまい-2



ダメ男。
店長こと、飯田恵介さんのお店、パティスリーもみの木で働いて早半年。
やめて行った女性スタッフの背中を見送った回数はもうすぐ20。

もみの木ロールとかいう、ふざけた名前のロールケーキが売りのこのお店のケーキは、なかなかおいしいと評判らしい。
始めは雑誌の取材も笑顔で応じていたが、これ以上忙しくなると勘弁と最近は丁重にお断りしている。わたしが。

お店に入ってすぐに目にはいるショーケースの他に、奥にはカフェスペースがあるのだが、今はCloseの札がかけられている。手が回らないのだ。
さすがに土日だけはOpenの札にひっくり返すのだが、もう大変。
ふわふわとした憧れだけで働き始めた女子大生は、大抵これでやめて行く。

「ねえ、店長って彼女とかいるのかな?」

新しく入ったバイトの由美さんが、上目遣いで聞いてきたとき、わたしはまたため息が出そうになった。
この店に、お客も夢見る乙女たちも雑誌の取材も呼び込むのはすべてあいつのせい。
よそ行きのあの笑顔は、好青年そのもの。
作るお菓子は絶品。
30歳という若さながら自分の店を持ち、独身、どこかのファッション雑誌に載っていそうなスタイルに、載っていそうな顔。
完全無欠のイケメン。
この人狙いの女は後を絶たない。

「えー、なんでわたしにそんなこときくんですかー?」

いつもどおりにへらへらっと答える。
しかし、これでかわせた試しは一度もない。

「だってー、美優ちゃんはさー、店長と仲良いじゃん?」

わたしよりも背の低い由美さんは上目遣いで言うけれど、なんだか見下されている気分になる。
つまるところ、そういうことなのだ。

必要最低限の化粧と、手入れがめんどくさくてかなり短く切った髪。
ほぼ毎日、シフトが入っているので使い込んだサロンさえも、そんなことを思う要因のひとつなのかもしれない。

美優ちゃんは気に入られてるから。
先週辞めた紗江さんが言っていたっけ。

気に入られてる。可愛がられてる。

つまり、好かれているわけじゃないんだ。
女として、見られていない。
だから、距離が近いだけ。

あの人に憧れる彼女達は、例え遠くても同じレーンにいるかもしれない。
どんなに遠くてもがんばれば、追いつけるかもしれないと期待をしている。

でも、わたしはどんなに近かったとしても、レーンが違うんだ。
がんばってがんばって、追いかけても同じ場所にはいけない。
あの人の場所に行ったらそれは、ルール違反なんだ。



ここまで考えても、このなんとも言えない感情を表に出さずに、笑うことができるのもいつものこと。




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