第11章 あなたに私の全てをあげるつもりよ。でも、一つ一つを大切な思い出にしながら、あわてずに階段を上って行きたいの。わがままかしら?-1
昴はこの後何を食べたか覚えていない。それほどまでに、ひたぎのキスは想定外で衝撃的だった。食事の後、昴がある提案を持ち出した。
「この後、このホテルのスイートルームを見学していかないか?」
「スイートルームを?気に入れば予約をしようとでも言い出すのかしら?ファーストキスを終えたばかりの童貞くんにしては、随分と大胆な提案ね?」
「そんな大それたことじゃなくて、二人で勉強するのに家から近くて落ち着ける場所があってもいいかと」
「一般人の発想じゃないわね?それに、どんな勉強をするつもりかしら?でも、お部屋を見るのは悪くないわ。お茶くらい、飲んでいけるのかしら?」
「ああ、夕方まで使えるように部屋を押さえてある」
「そう・・・」
スイートルームの窓辺のテーブルに紅茶が運ばれる。ひたぎは部屋の中を見渡しながら紅茶をカップへと注いでいた。ひたぎの優雅な動きに思わず見蕩れてしまう。
「こういうのを不純異性交遊というのかしら?」
「僕の心に不純な気持ちはないよ」
「高校生は純粋に勉学に励むべきだと、若さを妬む大人が勝手に決めたただけのこと。私は勉強と恋愛を両立できるわ。大人になんと言われようとね」
「不純なんて言わせない。ひたぎには、一点の曇りも付けたくないからね」
ひたぎが部屋の中へと視線を移す。
「そう・・・スイートルーム・・・甘いお部屋・・・ダブルベッドに、二人掛けのソファー、男と女が日常を離れて二人きりで過ごす部屋。この部屋で何組の男女が愛を確かめ合ったのかしら。どんな恋人逹が愛を確かめ合ったのかしら・・・一目をはばかる男女が、許されない愛を実らせたのかもしれないわね・・・スイートルーム・・・男と女が特別な時間を過ごすためのお部屋・・・目眩がしそうよ・・・」
詩的に言葉を紡ぎ続けるひたぎは、恐ろしいほどに美しく見えた。
「ひたぎといると、世界が違って見える。思いが溢れて止まらなくなりそうだ・・・」
「こんな場所に連れてきておいて、何を言っているの?さあ、私をエスコートしなさい」
ひたぎは立ち上がり、昴の手を取るとベッドへと上がった。二人でベッドの真ん中に座り込む。
「ダブルベッド・・・こんなに広いのね、それに肌触りがよくて柔らかい・・・思わず体を預けたくなる・・・恋人を抱き寄せて愛を確かめ合うには、これ以上の場所はないわね・・・」
ひたぎがベッドへと倒れ込む。
「来て・・・」
昴がひたぎの言葉に導かれ、ひたぎに体を重ねていく。
「ひたぎ、綺麗だ」
昴が、かすれた声で言った。いろんな思いが溢れ過ぎて、それだけしか言葉にできない。
ひたぎは大きく脚を開いて昴を迎え入れると、昴の体を抱き寄せた。
「もう少し、体を寄せて・・・そうよ、抱き締めて・・・」
ひたぎの体に腕を回すと折れそうなほどに細くに感じられた。
「苦しくないかい?」
「ええ」
ひたぎが両膝を引き上げ、M字開脚の体制を取る。ひたぎの体に、それも股関の部分までぴったりと密着した昴は、思わず体を硬くする。
「初体験の時はこんな感じかしら?」
「ああ、本番の方が、落ち着けると思うけどな・・・」
「あなたに私の全てをあげるつもりよ。でも、一つ一つを大切な思い出にしながら、あわてずに階段を上って行きたいの。わがままかしら?」
「同じ思いだよ。ひたぎと大切な時間を積み重ねて、もっともっと、ひたぎを好きになりたいんだ」
「ありがとう。でも、硬いものが、当たっているわよ」
「ごめん。考えないようにすればするほど、ひたぎの大切な場所に触れていることを意識してしまう・・・」
「素直でいいわ。本当は私も昴の体が触れていることを意識していて、体を熱くしていると言ったら、どうする?」
「やめてくれ。本当に止まれなくなる」
ひたぎが昴の潤んだ瞳を見詰める。
「キスをしましょう・・・」
「ああ・・・ひたぎ、好きだよ・・・」
唇が重なる。昴が震えているのが分かる。昴がひたぎの唇をついばむようにしてキスを重ねていく。ひたぎの呼吸が乱れ、大きく胸を揺らす。