第10章 あなたが望むだけ、私の傍にいることを許してあげる。-2
昴が淡い水色の紙袋を差し出す。ひたぎが目を見張る。
「開けてみてくれないか?」
「TIFFANY? 出来過ぎよ・・・」
「あ、ごめん!中は違うんだ!」
「紛らわしいのよ!」
珍しくひたぎが声を荒げる。
「嘘だよ。本当はティファニーだ」
「私を試すなんて、いい度胸しているわね?」
「気に入ってもらえると嬉しいけど・・・」
ひたぎは丁寧に箱を開けるとリングを取り出した。
「パロマピカソ ラブ&キスリング 今日の日を祝福するために探してくれたのね。でも、こんなに高価なものを・・・」
「三つのダイヤモンドに変えてルビーを仕込んだ、ひたぎモデルだよ」
「本当に良いの?私にそれだけの価値があるとは思えないけど・・・」
「足りないくらいさ。喜んでもらえるかな?」
ひたぎは長い間、昴を見つめていた。
「昴、こっちに来て、指輪を嵌めてくれる?」
昴がテーブルを回って、ひたぎに歩み寄る。ひたぎが立ち上がる。
「王子様座りで、私の手を取りキスをなさい。そして、愛を誓って、指輪を嵌めて」
「王子様座りって、マ、マジかよ?」
静かではあるが昼時のレストランは何組もの客が食事をしている。
「ええ、本気よ」
威厳に満ちたひたぎの言葉に昴は逆らうことができない。昴は左膝を絨毯ついて右膝を立てると、ひたぎの手を取りキスをした。
「ひたぎ、月並みな言葉で申し訳ないけど好きなんだ。ずっと僕の恋人でいてほしい」
ひたぎが左手を差し出す。
昴はひたぎの手を取ると、指輪を薬指に嵌めた。
ひたぎがこれまでに見せたことのない優しい笑顔で、昴に語りかける。
「あなたが望むだけ、私の傍にいることを許してあげる」
ひたぎがひざまずく昴を覗き込む。そして昴の頬に両手を添えると、覆い被さるようにして唇を重ねた。ファーストキスだった。
キスを終えると、ひたぎは何事もなかったように優雅に席についた。