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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-6



「・・!!」
『拓斗と心の距離を置くと、どうしてもブレる。何も話さないことで、頼らないことで、私が拓斗から自分を遠ざけたら遠ざけるほどにトランペットの音が鈍る。拓斗が好きだって言ってくれた音じゃなくなるから、上手くいかなくなる。』
「・・瑞稀・・」
『私にとって、トランペットも凄く大切。でもそれと同じくらい拓斗だって大切なんだ!どっちかを捨てるなんて、絶対したくない!!両方守りたいんだ!!』
「・・・瑞稀・・!」
『拓斗が必要とか、そんなに浅くない!必要どころか絶対だよ!!』

柄にもなく、熱いものがこみ上げてくる。
瑞稀の吹くトランペットの音が好きなのは、一回だけ言ったころがある。今も好きだ。
あの時は瑞稀を慰める為に言った言葉だった。泣いて欲しくなくて。笑ってほしくて。
でも、その言葉が瑞稀のトランペットの音になっているなんて、考えたことも無かった。

『・・・何も、話そうとしなかった。今回私に起きたトラブルだけじゃなくて、アメリカに来てから多分一度も。』
「・・・っ」
『話す必要もないって思ってたし、上手くいってないことばかりだから。夢に向かって努力して結果を残してる拓斗に追いつけないって思って言えなかった。』
「・・そ、んなの・・」
『でも、今回。私が話さなかったせいで、拓斗が不安になって傷ついた。それに気づいた時、拓斗が傷つく以上の辛いことなんて無いって分かった』
「・・・っ・・」
『私が少しずつでも言葉にすることで、少しでも拓斗を傷つけなくても済むならいくらでも言葉にする。拓斗が知りたいことも、私の気持ちや苦しさも、全部・・!』
「・・っ!」

涙が、止まらない。こんなにも自分を愛していてくれたことが、嬉しくて。
謝るかどうかで一時間も固まっていた自分とは違って、これからのことも考えて、こんなに自分へさらけだしてくれたことが嬉しくて。
簡単に、信じること・愛することの、愛を捨てようとした自分を恥じた。

嗚咽が止まらない拓斗に気付いているが、落ち着くのを待っている余裕が無いであろう瑞稀は思ったより高ぶっている感情を抑えるために息を少し吐き出したのが分かった。

『・・拓斗が私をこれ以上信じられなくて、付き合ってるのが辛いなら別れるよ。でも、私は別れるなんてしたくない。だけど多分、今の私の言葉を全部信じることは難しいと思う。』
「・・・!」
『・・・一ヶ月後。日本でまた公演をやるんだ。私もメンバーとしてステージに立つ。その時、拓斗が好きだって言ってくれた音を吹ける事が私の全てで、言葉だから。それだけは信じて。』
「・・・みず、きっ」
『・・スタッフに拓斗のこと言っておくから、聴きに来て。中に入れるようにしてもらうから。その後、時間もらって会いに行くよ。』
「・・・え・・」

時間をもらって、会いに来る。
初めて聞いた、前とは少しニュアンスの違う言葉に拓斗は一瞬驚いた。


『どんな答えだったとしても、二人の答えが大切だから。恋人でいられるか、別れるかの二択だけど未来に繋がる大切な答えを、電話やメールなんて簡単に済ませたくないんだ。』
「・・っ」
『だから、会いに行くね。・・・じゃあ、その時に。』

拓斗が止める間も無く、電話は切れた。
しゃくりが止まらず、顔は涙でぐしゃぐしゃ。携帯を握り締めて止まる気配の無い涙を何度も何度も拭うしか出来なかった。

瑞稀の言葉を信じてない訳が無かった。嬉しかったのだから。だけど、瑞稀はそれで気がすまないし自分を許せないんだろう。しかも拓斗も嬉しい反面、本当かと一歩引いている自分が居る。多分瑞稀はそのことを踏まえて、簡単に自分の言葉を全て信じてもらえる訳ではないだろうと言った。
だから、拓斗が好きだと言ったトランペットの音色を聴かせると言い切った。

だが拓斗が瑞稀のトランペットのどんな音が好きなのか、多分瑞稀は分かっていない。
何故なら、拓斗自身も良く分かっていないのだから。ただ好きだと感じただけで、瑞稀を慰めたい一心で言った言葉に、深い意味は無かった。
拓斗自身が良く分かってないモノを、瑞稀が分かる訳無い。気持ちを感じているだけでは、相手に伝わるなんて幻なのだから。
でも。そこまでの賭けをやることで、瑞稀は拓斗が大切なんだと伝えたい。
その気持ちが、痛いほど伝わった拓斗は涙を溢れさせた。





「・・・ふぅ・・・」

伝えたいことを久しぶりに全て言って、電話を切った瑞稀は息を吐き出した。
自分の手の中にある携帯を見つめる。拓斗が泣いていたことにはだいぶ最初の方で気付いていた。でも、それに囚われるとまた言いたいことが言えずに終わってしまう気がした。それだけはしたくなかった。

『言い切ったわね、彼の好きな音を吹くと。』(ここから『』は英語)
『エンディ。』

振り返ると、練習室のドアにエンディが腕組をして立っていた。美人は何をしても様になる。と瑞稀が零すと、エンディは呆れた。

『バカなこと言ってる場合?彼の好きな音、分かってないんでしょ?』
『うん。わかんない』

ハッキリと言い切った瑞稀にエンディは頭を抱えた。最早これは開き直りに近い。

『アンタねぇ・・』
『大丈夫。』
『え?』

瑞稀は携帯をズボンのポケットにしまうと、トランペットケースを肩にかけてエンディの横を通り過ぎた。廊下に出たところで、自分をポカンと見つめているエンディへ振り返って久々の力強い笑顔を見せた。

『今度こそ、守るよ。失敗と向かい合おうとしないで逃げるのは、情けないからね。前みたいにコツコツやってくよ。』

そう言うと、瑞稀は仲間が待つホールへ歩きだした。
突然の言葉と変化にエンディは驚きを隠せなかったが、もう最近までプレッシャーと期待に追い込まれた様子なんて見えない瑞稀に笑顔を浮かべた。


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