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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-5



その夜。
拓斗はTVもなにもつけず、ただ暗い部屋のベッドの端に座ってケータイを見つめていた。画面に出されているのは瑞稀のアドレスに登録されている携帯番号。
何度も何度も通話ボタンを押そうと、かれこれ1時間は同じ状態で過ごしていた。

秋乃と千晴。
二人に言われて、なにも言わなかった経緯とか、瑞稀の気持ちを何一つ聞いてなかったことにやっと気付いた。
だからこそ電話で話さないといけないと思ってケータイを取り出したはいいが、どうしても指が通話ボタンを押すに至らない。
全てが分かった気がして、冷静に今までの事を振り返ってみると自分がいかに瑞稀に最低な言葉を吐いたのかがよく分かった。
ただでさえ、甘えたりとか自分の心を伝えるのが得意じゃないことを誰よりも分かっていたハズなのに。その罪悪感が身体を強ばらせてしまう。

「(伝えなきゃ、いけないのに)」

別れようなんて、本当は思ってないこと。
なにも教えてくれなかったのが寂しくて、八つ当たりみたいなことをしてしまっただけ。
謝りたい。
なのに、あの会話で感受性が強い瑞稀がもっと追い込まれていたら。もっと無理をして、また倒れでもしていたら。
そう思うと話さなきゃいけないのに申し訳なさや罪悪感に押しつぶされそうになる。

このまま電話をして。自分に文句だろうが批評だろうが言われても、何でも受け止める。
だけどこの前みたいに別の人が出てきて、無茶したとか、倒れたとか聞かされたら。
間違いなく自分のせいであって、離れた場所に居る拓斗にはどうしようもない。それをもう一度実感するのが怖い。

「(・・・いや、逃げるな。俺)」

言いようのない恐怖を感じた時、二人の言葉を思い出した。
ここでまた逃げを見せても、同じことを繰り返すだけ。遠慮なんかしない。
少しだけ震える指で、通話ボタンを押そうとした時。

「わっ!」

そのケータイから着信を告げる画面に切り替わった。
驚いて、ケータイを落としそうになるがそこは持ち前の反射神経で落とさずに済む。

「(せっかく覚悟を決めたのに)」

水を差しやがって、一体誰だ。という苛立ちを隠さないまま画面を見ると、目を見開いた。画面には、先程まで自分がにらめっこをしていた人の名前。
恐る恐る通話ボタンを押して、ケータイを耳元に当てた時には苛立ちなんてなかった。

「・・はい」
『・・・拓斗?』
「・・あぁ」

数日ぶりに聞く、瑞稀の声。それが何年も聞いていなかったような錯覚に落ちるのはなぜだろう。何を言っていいか分からず、黙ってしまう。暫く沈黙が流れた。意を決して沈黙を破ったのは拓斗の方だった。

「瑞稀!俺っ・・!」
『ストップ』

謝ろうとした時、瑞稀から鋭い声で止められた。初めて聞く瑞稀の声に拓斗は思わずひるんだ。複雑な気持ちで拓斗は瑞稀からの言葉を待つ。

『・・この間。だいぶ好き勝手、一方的に言ってくれたから今日は私が一方的に言おうと思う。だから拓斗は黙ってて』
「・・・分かった」

瑞稀の言葉に、拓斗はただ了解の返事を返すだけでいっぱいだった。
そういえばコイツ意外に負けず嫌いなところもあるんだよな・・とどこか他人事で状況の把握をしていた。
一体、何を言うんだろうか。さっき、文句だろうが批評だろうが受け止めると言ったが早くも無理そうだ。こんなにも心臓が色々なもので押しつぶされそうだ。
拓斗の心臓事情なんかお構いなしに、電話口から瑞稀の息を吸った音が小さく聞こえた。

『・・・この前エンディがどこまで話したかは知らないけど。とりあえずエンディが言ったのは全部、事実だから。』
「・・っ・・」
『その時の私が取った行動は、多分間違ってた。でもそれは決して拓斗が必要無いとかじゃない。』
「・・・・」
『私がメンバーを外されたのは、確かに不調とか公演の失敗もあったんだけど一番の理由があった』
「・・?」
『・・私のトランペットの音に、消えかけたモノがあったから。それをちゃんと分かるまで、取り戻すまでメンバーに戻す気は無かったって言ってた。』
「・・・・」

どうしても瑞稀の勿体ぶるような言い方に早く続きを言えと強くせがみたい衝動に駆られるが、黙っててと言われた手前、そうするわけにもいかずなんとか衝動を抑える。
少し溜めて、瑞稀の声が届いた。

『・・私のトランペットにあったのは、拓斗が好きだって言ってくれた音なんだ。拓斗が好きだって言ってくれない音は私の音じゃないんだ』



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