箱の中の夢-2
彼が僕の腕の中にいることさえ奇跡に近いことだが、人間とはバカなものでその感覚もすぐに忘れてしまうのだ。
せめて今だけはこの男に精一杯酔っておこうと決めて、彼の髪の毛に口付けした。
いつの間に寝たのか分からないが、朝が来ていた。
僕の剥き出しの腕の中からは、彼が消えていて、一瞬昨晩のことは夢なのかと背筋が凍った。
ザーザーと流れるシャワーの音と、部屋に充満したなんとも言えない男特有の青臭い香りで、僕はようやく夢ではないことを確認し胸を撫で下ろす。
全裸の僕はベッドから出て、着替えを取ろうと床に投げ散らかしてあるGパンに手に掛けたが、穿かずにズルズルとそれを引張ってバスルームに向かった。
シャワーの音に混じって、彼の鼻歌が聞こえる。
中学の頃に流行った曲か何かで、少し哀しい曲なのだ。寂しそうな響きが、彼の低い声を寂しそうに際立たせている。
僕は急に切なくなってしまって、バスルームの半透明の扉を叩いた。
「大輔?」
彼の声が僕の名前を呼ぶ。それだけでもう胸が高鳴ってしまう。
「入ってもいい?」
僕は扉を開けながら、今更だと思いながら聞いた。
彼はきちんとシャワーカーテンを引いていた。引っ越すときに姉から貰った黄緑色のカーテンは、もう大分くたびれている。
僕は顔だけを出して、彼の顔を見つめた。
「一緒に入る?」
笑いながら彼は聞いてくる。
シャワーから溢れるお湯は、もうバスタブを半分くらい埋めている。
僕は頷いた。
彼もはにかみながら手招きをする。
「じゃあ、失礼」
僕は股間も隠さずに、バスタブに足を突っ込んだ。
流石に狭くて、僕らは肌をピッタリとくっつけあって、バスタブに沈んだ。
換気用の窓は、朝日がようやく差し込んでくる時間だと告げていた。
「狭いって」
そう言って眉を顰める彼に、
「狭いね」
と僕はオウム返しのように彼の耳に囁く。
勢いで耳を口に含んだ。