メール調教-1
肌にまとわりつく濃厚なデザイアーの芳香。
私にとって「愛しい人そのもの」とも言えるその馥郁(ふくいく)とした香りに包まれて、私はゆっくりと目を覚ました。
「ん……かず……」
甘えるようにぬくもりを手探りしながら寝返りをうったが、そこにあったのは冷え切った自分の枕だった。
「……そっか……帰ったんだっけ……」
一緒に暮らしていた七年前とは少し勝手が違う。
一瞬ゆうべのことが夢の中の出来事のようにも思えたが、シーツに染み付いた彼の匂いと、身体の奥に微かに残るその感触はハッキリと自覚できた。
『──前よりエッチになったね。興奮したよ』
帰り際に言われた言葉が不意に蘇って、身体がジンと熱を帯びる。
エッチだなんて……そんなつもりはなかったけれど、気持ちがひどく高ぶって、我を忘れるくらい乱れてしまったことは覚えている。
昨夜の交わりを、「──すごくよかった」なんて言ったら、はしたないだろうか。
一線を超えてはならないとずっとこだわって踏みとどまってきたけれど、実際こうなってしまうと、それは自然でなんでもないことのようにも思えた。
一輝から「久しぶりに二人だけで飲みたい」と誘われたのは、昨日の夕方のこと。
「やっぱ祐希と飲むのが一番楽しいんだよなぁ」
周りに課の後輩たちがいるのに平気でそんなことを言うから私のほうが慌ててしまって、
「あ、あの、K社の……は、受注システムの件ですよね?ちょうどご報告しなければならないことがありまして……」
などと必要以上に苦しい言い訳をしながら、その誘いを受けた。
一輝は既婚者だし、お酒が入ればまたお互い人肌恋しくなるのはわかっている。二人きりで飲むのはもうやめようと、密かに心に決めていたのだけれど。
『──食事だけだから。仕事の話をするだけだから』
そんなふうに高ぶる感情を精一杯つっぱねていたのは最初だけで、タクシーの中で彼に「早く二人きりになりたかった」と手を握られた瞬間、私はもう「女」になってしまっていた。
気分が高揚し、勧められるままに飲んで、自分でも信じられないくらい酔って───気がついた時には───抱かれていた。
本当は一輝がシステム推進課に異動してきたその時から、私はこうなりたいと望んでいたのかもしれない。
そもそも嫌いになって別れたわけではないし、今でも一輝のことは素敵だと思っている。
一輝に抱かれて、心からそう感じた。
野獣のように荒々しく、計算しつくされた魔法のように繊細な一輝のセックス。
その濃密な愛撫が、私の中にずっと眠っていた部分を呼び覚ましたように思えた。
いつもと同じ朝が、昨日までと全然違う。
髪の一本一本から足の爪先まで、全身に一輝が染み込んできらきらと輝いているようにさえ感じられた。