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もう君に会えない
【大人 恋愛小説】

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少しだけ、揺れる-5

あたしが勢いよく喫煙室のドアを開けると、そこには案の定久留米さんしかいなかった。


彼は相変わらず無愛想にこちらをチラッと見ただけで、すぐに窓の方に視線を移した。


こないだなら、この沈黙に耐えられずにあたふたして恥を晒してしまったけど、今日は話しかける正当な理由があるし、そんな素っ気なくされないはずだ。


いざとなったら、塁を落としたことのあるこの“玲香スマイル”でなんとかなるはず!


ちょっとキツそうに見られるあたしがニッコリ笑えば、塁は決まって目を細めて“お前が笑うと嬉しくなる”なんて言ってくれたものだ。


……まあ、それも付き合っていた頃の話なんだけど。


あたしは、久留米さんから見えないように壁に向けて笑顔の練習をしてから、そっと久留米さんの横に立った。


そしてニッコリ笑い、


「あの、先程はありがとうございました」


と頭を下げた。


「……はあ」


それなのに、久留米さんはたった一言そう言ってちょっと頭を下げただけ。


こういう時って、普通はお愛想程度でも何かもっと言葉を返すもんじゃないの!?


久留米さんのあまりの愛想のなさに怯み始める。


いや、負けるな玲香!


あたしは、笑顔一つ見せない久留米さんにこれ以上ないってくらい極上のスマイルを浮かべ、手に持った微糖の缶コーヒーを彼に渡そうとした。





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