遠いこの街で-9
「ヒロ!」
さっきまた悪ふざけをしてオレが殴り倒したタケがもう復活して追い掛けてきた。今日バイトがないことをあいつは知っているから遊び相手に選ばれたんだろう。
「お前綿菓子作戦聞いたか?当番の時間とかも確認しとけよな。」
「ああ、分かった。」
「なんだよ、まだ怒ってんのか?」
「お前に毎回話すのはオレだが、毎回からかうともう話さねぇぞ?」
オレは怒りに満ちた目でタケを睨み付けた。タケは軽くひるみ、それからオレをなだめた。
「まぁま。しかし、意味深な会話だったよな。お前そのあとどうしたの?」
「居辛いからバイトって逃げてきた。」
「間違いないな。」
そう言った後タケはいきなり笑いだした。オレは気になってどうしたか聞いてみると。
「いや、なんだかんだでお前結構ハマってるなと思ってさ。」
「はぁ?」
「千夏ちゃん。本当は名前分かって嬉しいんじゃねぇの?」
「…よく分かんねぇ。」
そう言われて彼女の姿を思い出したが、言葉の通りだった。ため息まじりに出した言葉にタケはほほ笑み、まるで成長していく子供を見守るように話した。
「お前にも春が来たよな、こっからつぼみになって花が咲くんだって!」
嬉しそうにオレの肩を抱き何回もうなづいた。いつもの様に必要以上の成り行きに期待をするタケにため息混じりの台詞を吐く。
「お前じゃあるまいし。」
「ところで、今日バイトないだろ?車出すからドライブいかね?」
思ったとおりだ。今日は天気もいいし、まだ日も高い。ドライブ日和りだな。
「いく!」
「いい返事だ。車はアパートなんだ、行こうぜ!」
タケは嬉しそうに歩きだした。本人には言えないが、こいつのこういう素直さが羨ましかった時期もある。まあ、結局自分は自分という答えに落ち着いてしまったが、それを気付かせたのもタケだった。
タケのアパートは街中を抜けた先にある。ほとんどこいつと行動しているから通学路といっても過言ではないかもしれない。
「お前相変わらずコンビニ期限切れ弁当生活してんのか?」
「まぁ、廃棄だからもらえるもんはもらうだろ。たまになら作ってるよ。お前こそラーメン生活?」
「いや、最近あの一万生活のテレビ見てさ。小麦粉からパン作ったり炊飯器で一気に作ったりしてる。たまには食べにこいよ、ヒロ!」