遠いこの街で-8
ゲンコツを一発タケにくらわせ、ぷりぷりしながらヒロは去っていった。古賀の大して感情のこもっていない慰めの言葉が余計に染みるタケだった。
ある晴れた日の公園には制服姿の女の子がいた。
人を探すように辺りを見回し、収穫がなかったためにため息を吐く。
「…今日はいないのかしら…。」
「誰が?…千夏誰か探してんの?」
よくこの公園に出向き時間を過ごしていた女の子は「千夏」と呼ばれ振り向いた。
「別に探してはいないんだけど…なんとなくいるかなって…。」
「この前言ってた人?」
「うん、そう。」
きっとレポートがないんだわ。そう自分を説得し、またため息を吐いた。その姿を見兼ねて友人が声をかける。
「…千夏、ねぇ…まだ気持ち変わらないの?私、どうしてもそうは思えないんだけど…。」
「いいの…前から決まっていたことなんだし、これしかないんだから。」
少し投げやりな言い分に友人である女の子は彼女の前に立ち目を見て話しはじめた。真剣に向き合うように、少し怒っているようにも見える。
「千夏!私はあんたが決意したなら全面的に協力するわ。何も惜しまない。だから、後悔しないように…選んでほしいのよ。私が絶対助けるから!」
友人の言葉を聞いているとき、複雑でこれ以上の言葉を拒むような顔をしていた。その姿は明らかに自分が放った言葉とは矛盾している。
迷っている。それは誰がみても分かっていた。やがて彼女の視界に何かが飛び込み友人をとらえなくなった。その変化に気付いた友人も視線の先を追った。
「あら?どーも。」
公園の入り口から煙草を吸いながらヒロが歩いてきた。二人の視線に気付き、携帯灰皿に煙草をおさめて挨拶をした。
「あ、こんにちわ。」
「何?すんごい今日は見てくるけど死んだかと思ったか?」
「えっ!?あ、今日はレポートじゃないんですね。」
「ああ、バイトまで時間余ったから。」
「そうなんですか、何のバイトですか?」
「すぐそこのコンビニ。」
「そうなんですか、じゃあ…ここにはよく来るんですね。」
ヒロと話し始めた千夏の顔は赤くなり、嬉しそうにほころんでいった。好意を持っていることは丸分かりだった。その様子を複雑そうに見守っているのは彼女の友人。
千夏の姿に耐え切れなくなって思わず尋ねずにはいられなかった。
「会えなくなるよ…千夏?…それでもいいの?」
大学内は浮きだっていた。そろそろ大学祭が開かれる時期、大たちのサークルは綿菓子を出すらしい。必要なのは砂糖と割り箸と機械。原価はゼロに近い。
早い話がぼろ儲け計画。案を出したのがタケだというから、ちゃっかりしているあたり納得がいく。