遠いこの街で-7
そしてヒロはまたタケに怒られるハメになるのであった。
「で?!結局お前は名前も連絡先も何にも聞かずに別れちまったのか?」
もう信じられない気持ちを全面に押し出してタケが叫んだ。
例によって授業中の筆談の後の光景だった。講義が終わった教室は人の騒めきがひどく、タケの声は見事に掻き消されたがヒロには威力はある。
「聞いてどうするよ?ナンパじゃねぇか。」
「もったいない!そこから始まるかもしれない出会いをしながらも、自分から手放すなんて考えられん!!もう、目覚めろ!ナンパ精神!!」
ヒロのあまりの態度にタケは叫ばずにはいられなかった。その考え方はとても若者とは思えない、もっと貪欲に、もっと性欲を!ここが廊下だろうが階段だろうが関係なく叫ぶ。しかしこの熱い男に対し、この冷蔵男はいつもと同じようにあしらうのである。
「お前じゃあるまいし。」
一通りのコントをし終え、ちょうど階段を下りきった食堂の所で古賀の二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ヒロ!タケ!」
「「あら、古賀じゃ〜ん。ナンパ大王。」」
二人の見事なハモリに古賀は脱力する。だが二人はなんの悪気もなく素直に出迎えたようだった。
「あのなぁ、オレがそうならお前はどうなんだよタケ!?」
「ナンパ大統領。ちょっと響きが素敵。」
「かわんねぇよ。どっちも中毒じゃねぇか。」
間髪入れず決まるヒロの突っ込みに二人は見事に革命を起こした。
「付き合い良いくせに。」
誰がひっぱってくんだ。そう心の中で怒り、おもいきり不機嫌そうな顔をした。
「そうだよ、ヒロ!お前彼女できたんだって?」
「はぁ?」
公園に女子高生といたところを後輩が目撃したらしい。古賀はそんな情報を手に入れ、急ぎ探しにきたみたいだった。
「しかもめっちゃ可愛い子らしいじゃねぇか。どこで知り合ったんだ?」
「いや、それは…。」
「NON!ヒロは今その子に猛烈アタックを仕掛けているところなのさ!」
弁解をしようとするヒロに勢いよく肩をくみ、茶化すようにタケは言った。もちろんヒロに怒らせたことは言うまでもない。
「いい加減にしろ!」