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遠いこの街で
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遠いこの街で-4

「あのさ…この辺で勝手に腐ってるから気にしなくていいよ。マジ眠い…だけ…だから。」
そう言えたかどうかは覚えていないが、オレは間違いなく眠りにおちた。意識がなくなるとはまさにこの事なのだろう。自分ではどうすることもできない状況だった。

遠くで携帯のアラーム音が聞こえる。ゆっくり目蓋を開けると青い空が広がっていた。アラームの正体はオレの手の中にあった携帯が、バイトの時間を知らせるものだったらしい。

「あれ?」
よく考えるとオレは携帯を落としたままだったはず。しかも体が冷えないようにかけられた服は…?

よく考えなくても分かる。あの子だろう。意識を手放し眠りについたオレに、わざわざ風邪をひかないように自分の上着をかけて、地面に落ちていた携帯も拾って手にもたせてくれたらしい。オレは彼女の服を持ってバイトに行った。
「へぇ、今時めずらしいくらい良い子だな。」

大学の講義のあと、騒めく中でタケが感想を言ってきた。授業中の筆談で事のあらましを伝えたらしい。というのも、いつものヒロに不自然な紙袋が話のきっかけだった。
愛用の斜めがけカバン以外、滅多に物を持運びしないヒロが持つ紙袋。聞けば何日も持ち歩いているらしい。タケじゃなくても気にはなる。中身はあの親切な女の子の服だった。そこから講義中の筆談が始まり、今の感想にいたったのである。

「で、返そうと思って持ち歩いてんだけどなかなかあえないってわけね。」

「そういうこと。」
教室から移動しながらも話は続いていた。今日の講義も終わり家路につく流れの中に溶け込む。

「でもさ、そんだけしてくれるってことはよ?その子、お前に気があるんじゃねーの!?」
嬉しそうに肘でヒロをつつく。しかしヒロは全くからかいがいがなく冷静だった。
「…好きだねー…相変わらず。」

「だっておもしろい方がいいじゃーん☆」
淡泊なヒロに負ける事無くタケはおどけてみせた。いつもの事ながらため息がでてしまう。

「とにかく早く返さないと。ずっと持ってる訳にいかねぇし。服一着あるとないとじゃ違うからな。」

ヒロの言葉にタケは思わず唖然とした。貧乏学生ならではの発言だが、ここでいうか!?思わずヒロの肩を染みる思いでぽんぽんと叩いた。

「でもさー…別に持ち歩かなくても、ばったり会った時いついつどこどこで返すって言えばいいじゃんか。何日持ってんのよ。」

「…なんで?そう何回も会う必要ないし。」

スローモーションでタケの顔がひん曲がっていく。すぐには言葉にできないもどかしさがスローモーションで伝わってきた。タケのコメディーな動作をみてもヒロは淡泊なままだった。たまらずタケは叫びだす。

「っつぉい!なんで!?お前出会いのチャンスだぞ、ぱかじゃないの!?みすみす手放してどうする!?」

さすがに熱いタケの魂からの叫びに驚いたが、またすぐにいつもの冷静さを取り戻した。熱くなるタケを横目にため息をつく。

「お前じゃあるまいし。」

どーせオレは女好きだよ。とぷりぷりしながらヒロにつっかかるタケ。会話がはずみながらも足は進み、校外にでようとしていた。

「つーか、ヒロ。お前に浮いた話がねぇのが不思議。」
車のキーを指で回しながら率直に感想を述べた。
大きなお世話だ。淡泊な表情に怒りのマークが浮かび上がっている。


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